- 2025. 01. 20
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損益分岐点分析とは?
主要指標の計算方法や活用方法もわかりやすく解説
企業経営において、損益分岐点は収益性を判断するうえで欠かせない指標です。損益分岐点分析は、この分岐点を把握することで、経営戦略の立案や収益改善に向けた具体的な判断基準を得る分析手法です。本記事では、損益分岐点分析の基礎から主要指標の計算方法、実務での活用方法までを幅広く解説します。
- 目次
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損益分岐点分析とは
損益分岐点分析は、CVP分析(Cost-Volume-Profit Analysis)とも呼ばれ、企業活動の費用、販売量、利益の関係性を分析する手法です。収支がちょうどゼロとなる売上高を「損益分岐点」として把握し、企業の収益構造を理解し、利益計画を立てるための分析手法として活用されています。
損益分岐点分析の目的
損益分岐点分析は、経営における2つの重要な判断材料を提供することを目的としています。
経営状態の安全性評価
実際の売上高と損益分岐点を比較することで、現在の経営状態の安全性を定量的に評価できます。この分析により、リスク許容度の把握や事業継続性の判断が可能になります。
収益性向上のためのコスト構造分析
企業のコスト構造を固定費と変動費に分解して可視化することで、収益性を高めるための改善ポイントが明確になります。この分析を通じ、価格戦略の見直しや固定費の削減など、具体的な改善施策を導き出すことができます。
このように、損益分岐点分析はこうした判断材料を提供することで、中期経営計画の策定や年度予算の立案、新規事業の採算性評価など、さまざまな場面で活用されています。
経営分析のほかの手法については、「経営分析の5つの手法や見るべき指標、効率的に行うポイントまで解説!」で詳しく解説しています。
損益分岐点分析を構成する3つの基本要素
企業の損益分岐点を分析するためには、固定費、変動費、限界利益という3つの要素について理解する必要があります。
固定費
固定費は、売上高の変動に関係なく一定額が発生し続ける費用です。売上がゼロの状態でも発生するため、経営にとっては固定された負担となります。人件費(固定給与部分)や地代家賃、減価償却費、リース料などが代表的な固定費項目です。経営計画を立てる際は、これらの固定費の削減可能性や必要性を定期的に見直すことが重要です。
変動費
変動費は売上高に比例して増減する費用であり、事業活動の規模に直接連動します。原材料費や外注加工費、販売手数料、運送費などが主な変動費です。変動費は仕入先との価格交渉や業務プロセスの効率化によって、その削減が可能です。
限界利益
限界利益は、売上高から変動費を差し引いた額です。これは、固定費を回収し、最終的な利益を生み出すための源泉となります。企業が利益を上げるためには、この限界利益が固定費を上回る必要があります。
限界利益 = 売上高 - 変動費
限界利益を売上高で割った限界利益率は、企業の収益力を示す重要な指標となります。値が高いほど売上の増加が利益に直結しやすい収益構造であることを意味します。
限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高 × 100
損益分岐点の計算方法
損益分岐点とは、総収入と総費用が等しくなる(利益がゼロとなる)売上高のことで、「損益分岐点売上高」と呼ばれます。以下の計算式で求めることができます。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
あるいは
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ {1 - (変動費 ÷ 売上高)}
ここで、 (変動費 ÷ 売上高) は変動費率と呼ばれ、売上高に対する変動費の割合を示します。
例えば、ある企業の状況が以下の通りだとします。
- 固定費 : 1,000万円
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- 売上高 : 3,000万円
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- 変動費 : 1,800万円
-
まず変動費を計算します。
変動費率 = 1,800万円 ÷ 3,000万円 = 0.6 (60%)
この数値を用いて、損益分岐点売上高を算出すると、
損益分岐点売上高 = 1,000万円 ÷ (1 - 0.6) = 2,500万円
となります。つまり、この企業では、年間2,500万円以上の売上を確保できれば黒字経営が可能となります。これは現在の売上高3,000万円に対して十分な余裕があることを示しています。
売上分析については、「売上分析とは?目的やメリットから手法、ツールまでわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
損益分岐点分析における重要指標
損益分岐点売上高を基準として、企業の収益性や安全性を評価するための重要な指標が存在します。
損益分岐点比率
損益分岐点比率は、実際の売上高に対する損益分岐点売上高の割合を示します。
損益分岐点比率 (%) = 損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高 × 100
例えば、年間売上高が1億円で損益分岐点売上高が8,000万円の場合、損益分岐点比率は80%となります。
この比率が低いほど、企業の収益構造が安定的であることを意味し、一般的には80%以下が望ましいとされています。
安全余裕率
安全余裕率は、現在の売上高が損益分岐点をどの程度上回っているかを示す指標です。
安全余裕率 (%) = (実際の売上高 - 損益分岐点売上高) ÷ 実際の売上高 × 100
あるいは
安全余裕率 (%) = 100% - 損益分岐点比率
例えば、安全余裕率が30%の場合、現在の売上高は損益分岐点売上高を30%分上回っていることを意味します。この余裕度が大きいほど、売上減少に対する抵抗力が高い経営体質といえます。一般的に20%以上あれば安全圏、40%以上であれば理想的とされています。
目標利益達成売上高
目標利益達成売上高は、目標とする利益を確保するために必要な売上水準を示します。
目標利益達成売上高 = (固定費 + 目標利益) ÷ 限界利益率
あるいは
目標利益達成売上高 = (固定費 + 目標利益) ÷ (1 - 変動費率)
例えば、年間1,000万円の利益を目標とする場合、この計算式を使って具体的な売上目標を設定できます。この指標は、実現可能な経営計画を立てる上で重要な基準となります。
利益や売上目標を決める予算策定については、「予算策定の重要性って?流れと効果的に進めるポイントを解説」で詳しく解説しています。
損益分岐点分析の実務での活用方法
損益分岐点分析の指標は、具体的な経営改善施策の立案に活用できます。ここでは、特に重要な3つの活用方法について解説します。
収益性の改善
自社の収益構造の課題を特定することができます。特に損益分岐点比率が80%を超えている場合は、収益性を改善する余地が大きいことを示しています。例えば、次のような方法があります。
- 製品やサービスの価値を高め、販売価格の見直しを行う
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- 原材料の調達方法を見直し、変動費を削減する
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- 工程の効率化により、製造コストを下げる
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収益管理については、「収益管理に必要な3項目とは?課題解決や成功までのステップを解説」で詳しく解説しています。
コスト構造の最適化
損益分岐点分析により明らかになったコスト構造の特徴を基に、固定費と変動費のバランスを最適化することができます。損益分岐点比率が80%を超えている場合は、固定費負担が重く、アウトソーシングの活用や設備投資計画の見直しなど、コスト構造の柔軟化を検討する必要があります。ただし、各施策の実行においては、その影響を慎重に評価することが重要です。例えば、アウトソーシングは固定費を変動費化できる一方で、外注費の上昇により限界利益率が低下する可能性があります。総合的な収益性への影響を考慮した判断が求められます。
価格戦略への応用
限界利益率の分析は、戦略的な価格設定の重要な判断基準となります。商品やサービスの限界利益率を把握することで、値引きを行った場合の収益への影響を事前に予測することができ、採算の取れる値引き範囲を明確に設定できます。また、新商品の価格設定においても、既存商品の限界利益率を参考に、市場競争力と収益性のバランスの取れた価格レベルを導き出すことが可能です。
損益分岐点分析を正しく理解して経営判断に役立てよう
損益分岐点分析は、企業の収益構造を可視化し、具体的な改善策を導き出すための有効な分析手法です。収益性の改善やコスト構造の最適化など、経営課題に対して明確な指針を提供してくれます。損益分岐点分析の結果を正しく理解し、適切な対応を行うことで、環境変化に強い経営体制を構築することができます。