• 2023. 07. 24
  • 管理会計   
  • 業務改善・業務効率

経営分析の5つの手法や見るべき指標、
効率的に行うポイントまで解説!

経営分析の5つの手法や見るべき指標、効率的に行うポイントまで解説!

現代の企業間競争は激しいため、勝ち残るためには的確な経営判断と戦略の立案、そして業務改善が不可欠です。経営戦略を策定する際に、主に3つの財務諸表のデータを基にした経営分析が活用されています。

本記事では、経理部門が理解しておくべき経営分析の概要や手法、代表的な指標から、効率的に経営分析を行うためのポイントまで解説します。

目次

経営分析の概要

はじめに、経営分析の概要について確認しておきましょう。

経営分析とは

経営分析とは、自社の経営状況にまつわる客観的なデータを分析し、経営戦略に役立てることです。財務諸表や決算書など定量的な数字の分析が中心ですが、市場や競合企業に関する外部資料といった社外情報も考慮し、広い視野によって行われます。

分析によって、経営の効率性や生産性、収益性などさまざまな観点から自社について客観的に把握できるため、具体的な改善策や実行プランを練る際に役立ちます。

経営分析の目的

経営分析の目的は、「自社の現状や特徴を正確に把握したうえで、的確な戦略を立てること」です。自己分析ではどうしても主観的・楽観的になりがちなため、自社の問題点やウィークポイントを割り出し切れないケースも少なくありません。

そこで、客観的に自社の現状や強み・弱みを正確に把握するために、経営分析を用います。さらに、分析結果をうまく活用し効果的な経営戦略の策定や見直しを迅速に実行することも重要な目的です。

財務分析との違い

財務分析とは、決算書を用いて会社の経営状態を捉えることです。企業の財務状態に焦点を当て、損益やキャッシュフローを紐解くことを目的としており、財務諸表分析とも呼ばれます。

経営分析との大きな違いは、分析対象範囲です。経営分析は「財務状況のみに特化した分析」ではない点が異なります。

両者は分析の目的が同じであるため、同義と扱われることも少なくありませんが、経営分析のほうが財務諸表分析よりも広義であると捉えるのが一般的です。

経営分析の重要性

経営分析は、自社だけでなく、取引先や投資家といったステークホルダーにとっても重要なものです。ここでは、経営分析がそれぞれに対して果たす役割を確認しておきましょう。

企業にとっての重要性|課題を正しく抽出できる

企業は、経営分析によって自社の経営状況を正確に把握することで、課題を正しく抽出できたり、向かうべき方向性を認識できたりします。なかでも、設立から間もないために経営陣の経験やノウハウが不足している企業や、競合他社が多く厳しい競争環境におかれている企業にとって、経営分析は重要です。課題を見逃したことが経営上の大きなダメージになる可能性も高く、存続のゆくえを左右する要素といっても過言ではありません。

ステークホルダーにとっての重要性|投資や融資可否の判断材料になる

経営分析の結果は、外部向けの報告資料としても使われるものです。結果からは企業の安定性や今後の成長性などを読み取れるため、投資家や金融機関が投資・融資の可否を判断するための重要な要素です。また、取引先にとっても、相手方の経営状況は取引を継続するうえで把握しておくべき重要情報でしょう。

経営分析に用いる3つの財務諸表

経営分析を実施するにあたり、まず必要となるのが財務諸表に関する知識です。財務諸表は一定期間の経営成績や財務状態を表す資料で、なかでも経営分析で使われる以下の3つは、まとめて「財務三表」とも呼ばれます。

貸借対照表

  • 純資産(資本金や利益剰余金)=資産-負債

貸借対照表とは、決算時点で会社が保有する「資産」「負債」「純資産」の3項目が記入された財務諸表のことです。左側に資産、右側に総資本(負債+純資産)をまとめて記入します。左右の金額は必ず一致することから、「バランスシート」とも呼ばれます。

決算時点の負債や資産を明らかにするために作成されるもので、企業の財務状態をチェック可能です。

損益計算書

  • 利益=収益-費用(損失も加味)

損益計算書とは、企業の一会計期間(通常1年)における経営成績を示す財務諸表です。「どれだけの利益をどのようにして生み出したのか(もしくは損失が出たのか)」といった収支を表すもので、売上高・受取利息などを「収益」、買掛金・支払利息などを「費用」として計算します。

キャッシュフロー計算書

  • 流入した現金等(キャッシュ・イン)-流出した現金等(キャッシュ・アウト)

キャッシュとは、現金および現金と同等に扱われるもののことで、すぐに現金化できる預貯金などが該当します。キャッシュフロー計算書は、企業の一会計期間におけるキャッシュの流れ・増減を表すもので、流動性の高い現金が手元にどれだけあるかがわかる資料です。

経営分析の5つの手法とみるべき指標

経営分析には、主に5つの分析手法が存在し、それぞれにおいて見るべき指標があります。ここでは、分析手法ごとに詳しく解説します。

1.収益性分析

収益性分析とは、企業がどの程度利益を得る力を持っているかを調べる分析です。

企業の資本・売上などを相対的に見ながら、どれだけの利益を得ているのかを可視化します。経営戦略や企業経営の成果が直接反映される指標であるため、利害関係者から注目が集まるところです。

収益性分析には以下の3種類の分析手法が存在します。

1.利益増減分析

利益の増減の何が原因を分析する手法。増減した利益金額を、価格、原材料、固定費などの要素で分類し、要素ごとに、増減益への影響度を明らかにする。

2.損益分岐点分析

コストと売上が同額になる地点(損益分岐点)を求める手法。損益分岐点を知ることで限界利益も算出できる。CVP(Cost・Volume・Profit)分析とも呼ばれる。

3.資本利益率分析

企業が投入した資本に対して、どれだけの利益が生み出せたかを分析する手法。収益性の指標は、主に損益計算書の売上高と各種項目の利益の比率から計算する。資本利益率分析の代表的な指標は以下の5つ。

総資本経常利益率(ROA)

総資本に対する経常利益の大きさを示すもので、資本を有効に使えているかが判断可能。数値が高いほど良いとされ、5%以上であれば投資家から優良だと判断される傾向にある。

自己資本当期純利益率(ROE)

自己資本(株主資本)の活用度を示すもので、自己資本から生み出された純利益を計ることが可能。数値が高いほど資本を効率よく活用しているとされ、重要な指標としている投資家が多い。

売上高総利益率

売上高に対する粗利益の割合を示すもので、商品やサービスの収益力を判断する材料となる。数値が高いほど商品やサービスの付加価値が高いとされ、収益力が強いと判断できる。

売上高営業利益率

売上高に対する営業利益の割合を示すもので、本業における営業活動の効率性や稼ぐ力を計ることが可能。数値が高いほど営業力が強く、かつ効率的な営業が行われているとされる。

売上高経常利益率

売上高に対する経常利益の割合を示すもの。金融収支といった本業以外の財務活動も含めた事業全体の収益性を計ることが可能。数値が高いほど、総合的な企業の稼ぐ力が高いとわかる。

2.安全性分析

安全性分析とは、企業の債務弁済能力を調べ、財務基盤の安全性を計る分析です。バランスの取れたマネジメントができているかどうかが判断できる指標で、支払不能で倒産する危険度も測れるものです。

代表的な方法には、以下の3つがあります。

1.短期財務安全性分析

短期的な企業の支払能力の安全性を調べる手法。ここでいう短期とはおおむね1年以内を指し、代表的な指標には、「流動比率(短期的な会社の支払い能力を示すもの)」や「当座比率(流動資産のひとつである当座資産がどの程度あるかを示すもの)」がある。

2.長期財務安全性分析

長期的な企業の財務構造の安全性を調べる手法。代表的な指標には、例えば以下がある。

  • 「固定比率(自己資本に対する固定資産の比率)」
  • 固定資産をどの程度自己資本で賄えているのか

  • 「固定長期適合率(長期資本(自己資本+固定負債)に対する固定資産の比率)」
  • 固定資産をどの程度自己資本と固定負債で賄えているのか

    数値は高いほうが好ましいものの、高すぎる場合は資金が余っている状態を示すため、「事業に適切に資金を注ぎ込めていない」とみなされかねない。

3.資本調達構造分析

資本の調達先に関する「自己資本比率」や「負債比率」などから資本構造の安全性を表すもので、長期財務安全性分析に含まれることもある。「自己資本比率」は総資本に対する自己資本の比率、「負債比率」は自己資本に対する負債の比率となる。

なお、負債があるからといって「経営状況が良くない」とはいえない。重要なのは返済能力とのバランスが適正なのかという点であり、分析でしっかりと確認するべき事項。

3.生産性分析

生産性分析とは、利益を生み出すための企業資源である「ヒト」「モノ」「カネ」をどれだけ有効活用できているかを調べる分析です。企業が保有するリソースがどれほど効率よく利益を上げているか可視化できるため、現状把握や意思決定に役立ちます。

主な指標には、以下の3つが挙げられます。

労働生産性

従業員1人が生み出した成果や付加価値額を示すもの。数値が高いほど従業員の生産性が高いとされるが、適正な値は業種によって大きく異なるため、競合他社と比較するとよい。

資本生産性

投入した資本(機械、設備、土地等)に生じた付加価値を示すもの。数値が高いほど、効果的な資本投資ができているといえる。

労働分配率

付加価値に対する人件費の割合。人件費が適切であるか測れる指標。40~60%が理想とされているが、適正値は業種や企業規模によって異なる。

4.成長性分析

成長性分析とは、企業の成長率や今後拡大する可能性を計る分析です。自社のみに着目するだけでなく、市場全体や競合企業とも比較して適正値を導き出します。毎期の値を積み上げて推移を把握することで中長期的な傾向や動向を確認可能です。

代表的な指標には、以下の5つが挙げられます。

売上高増加率

前期に比べて今期の売上高がどのくらい伸びたかを示す。推移を確認することで状況判断に役立つ。

  • 売上高増加率(%)=(当期売上高-前期売上高)÷前期売上高×100

営業利益増加率

前期に比べて今期の営業利益の伸び率がどのくらいかを示す。マイナスになることもある。

  • 営業利益増加率=(当期営業利益-前期営業利益)÷前期営業利益×100

総資産増加率

前期に比べて総資産がどのくらい増えたかを示す。

  • 総資本増加率=(今期総資本-前期総資本)÷前期の総資本×100

純資産増加率

前期に比べた純資産の増減を示す。

  • 純資産増加率=(当期末純資本残高-前期末純資本残高)÷前期末自己資本残高×100

従業員増加率

前期に比べた従業員数の増減を示す。

  • 従業員増加率=(当期従業員数-前期従業員数)÷前期従業員数×100

5.活動性分析

経営活動が活発かどうかを見る分析手法です。資本を適切に運用し、売上を増やせているかどうかを確認するためのもので、売上と資産の割合を指標化して判断していきます。

代表的な指標は、以下の3つです。

総資本回転率

総資産に対する売上高の割合で、事業に投資した資本が売上高にどの程度結びついているのかを示すもの。回転率が高いほど効率よく利益を上げられていると判断できる。

  • 総資本回転率=売上高 ÷ 総資本

固定資産回転率

固定資産に対する売上高の割合で、企業の保有する固定資産がどれくらいの売り上げを発生させているのかが確認できる。数値が小さければ、保有している固定資産を活用しきれていないことを示している。

  • 固定資産回転率=売上高÷固定資産

棚卸資産回転率

棚卸資産に対する売上高の比率で、在庫を適切に管理できているかどうかが測れる。一般的には数値が高ければ「棚卸資産が少ない」と、低ければ「古い在庫が多く、在庫を持て余してしまっている」と判断される。ただし適切な数値は業種によって異なる。

  • 棚卸資産回転率=売上高÷棚卸資産

効率的に経営分析を行うための3つのポイント

経営分析を効率的に行うためには、どのような点に留意すればよいのでしょうか。3つのポイントを紹介します。

財務諸表データを正しく入力・管理する

経営分析の基本になるのは、財務諸表のデータです。基となるデータが間違っていれば、正しい分析結果は得られません。間違った分析結果を用いて経営戦略を練ると、経営判断を誤ったり、見当違いな施策となってしまったりするでしょう。財務諸表作成時には、ダブルチェック、トリプルチェックに努め、徹底してミスを防ぐことが重要です。

また、経営分析では、できる限り新しい情報が求められます。現状を反映していない古い情報で分析しても、効果が出にくいからです。一方で比較や推移を把握するためには、過去の財務諸表が必要です。そのため、最新のデータを迅速に共有することや、古いデータを保管する管理体制などが問われます。

自社に合った分析手法や指標を選定する

経営分析には多数の分析手法や指標が存在しますが、そのすべてに取り組む必要はありません。あれもこれもと手を出してしまうと、分析しにくくなるだけでなく、データを処理する経理担当者の負担も大きくなってしまいます。企業規模や事業内容によって選ぶべき手法や指標は異なるため、自社に適したものに絞って取り入れることも大切です。

分析ツールを活用する

効率的に経営分析を実施するためには、分析ツールを活用するとよいでしょう。経営分析のためのツールには、多様な機能を搭載するものから、財務諸表の作成といった一部機能に特化するもの、状況把握に役立つBIツールなど、さまざまなタイプが存在しています。新たなシステムの導入に不安がある場合には、エクセルのファイルをそのまま活用できるツールもあります。自社にとって使いやすいツールを導入していくことが重要です。

効率的な経営分析で企業経営を成功に導こう

経営分析は、自社の状況を正確に把握するために有効な手段です。強みは生かし、弱みは改善することで、健全で強靭な企業経営を実現できるでしょう。ただし、分析の手法や指標は幅広く、導き出せる結果もそれぞれ異なります。まずは、分析結果をどのように活用したいのかを明確にし、自社に適した手法や指標を選定することが重要です。

分析ツールを活用し、分析を効率化すれば、結果をいち早く経営判断に生かせるだけでなく、経理担当者の業務負担も軽減できます。正確で効率的な経営分析が、企業経営の安定化・事業拡大への一歩となるはずです。