• 2023. 07. 24
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経営分析の4つの手法や見るべき指標、
効率的に行うポイントまで解説!

経営分析の4つの手法や見るべき指標、効率的に行うポイントまで解説!

現代の企業間競争は激しいため、勝ち残るためには的確な経営判断と戦略の立案、そして業務改善が不可欠です。経営戦略を策定する際に、主に財務諸表のデータを基にした経営分析が活用されています。

本記事では、経理部門が理解しておくべき経営分析の概要や手法、代表的な指標から、効率的に経営分析を行うためのポイントまで解説します。

目次

経営分析の概要

はじめに、経営分析の概要について確認しておきましょう。

経営分析とは

経営分析とは、自社の経営状況にまつわる客観的なデータを分析し、経営戦略に役立てることです。財務諸表や決算書など定量的な数字の分析が中心ですが、市場や競合企業に関する外部資料といった社外情報も考慮し、広い視野によって行われます。

分析によって、経営の効率性や生産性、収益性などさまざまな観点から自社について客観的に把握できるため、具体的な改善策や実行プランを練る際に役立ちます。

経営分析の目的

経営分析の目的は、「自社の現状や特徴を正確に把握したうえで、的確な戦略を立てること」です。自己分析ではどうしても主観的・楽観的になりがちなため、自社の問題点やウィークポイントを割り出し切れないケースも少なくありません。

そこで、客観的に自社の現状や強み・弱みを正確に把握するために、経営分析を用います。さらに、分析結果をうまく活用し効果的な経営戦略の策定や見直しを迅速に実行することも重要な目的です。

経営分析の重要性

経営分析は、自社だけでなく、取引先や投資家といったステークホルダーにとっても重要なものです。ここでは、経営分析がそれぞれに対して果たす役割を確認しておきましょう。

企業にとっての重要性|課題を正しく抽出できる

企業は、経営分析によって自社の経営状況を正確に把握することで、課題を正しく抽出できたり、向かうべき方向性を認識できたりします。なかでも、設立から間もないために経営陣の経験やノウハウが不足している企業や、競合他社が多く厳しい競争環境におかれている企業にとって、経営分析は重要です。課題を見逃したことが経営上の大きなダメージになる可能性も高く、存続のゆくえを左右する要素といっても過言ではありません。

ステークホルダーにとっての重要性|投資や融資可否の判断材料になる

経営分析の結果は、外部向けの報告資料としても使われるものです。結果からは企業の安定性や今後の成長性などを読み取れるため、投資家や金融機関が投資・融資の可否を判断するための重要な要素です。また、取引先にとっても、相手方の経営状況は取引を継続するうえで把握しておくべき重要情報でしょう。

経営分析の4つの手法と見るべき指標

経営分析には、主に4つの分析手法が存在し、それぞれにおいて見るべき指標があります。ここでは、分析手法ごとに詳しく解説します。

1.収益性分析

収益性分析とは、企業がどの程度利益を得る力を持っているかを調べる分析で、3種類の分析手法が存在します。

1.利益増減分析

益額と利益率を比較することで、収益構造を分析する手法。

2.損益分岐点分析

コストと販売量に基づいた利益を分析する手法で、CVP(Cost・Volume・Profit)分析とも呼ばれる。

3.資本利益率分析

企業が投入した資本に対して、どれだけの利益が生み出せたかを分析する手法。収益性の指標は、主に損益計算書の売上高と各種項目の利益の比率から計算する。資本利益率分析の代表的な指標は以下の5つ。

総資本経常利益率(ROA)

総資本に対する経常利益の大きさを示すもので、資本を有効に使えているかが判断可能。数値が高いほど良いとされ、5%以上であれば投資家から優良だと判断される傾向にある。

自己資本当期純利益率(ROE)

自己資本(株主資本)の活用度を示すもので、自己資本から生み出された利益を計ることが可能。数値が高いほど良いとされ、重要な指標としている投資家が多い。

売上高総利益率

売上高に対する粗利益の割合を示すもの。本業でどれだけ利益を生み出せるかを計ることが可能。数値が高いほど収益力が強いとされる。

売上高営業利益率

売上高に対する営業利益の割合を示すもので、営業活動の効率性や稼ぐ力を計ることが可能。数値が高いほど営業力が強く、かつ効率的な営業が行われているとされる。

売上高経常利益率

売上高に対する経常利益の割合を示すもので、事業全体の収益性を計ることが可能。数値が高いほど、企業の稼ぐ力が高いとわかる。

2.安全性分析

安全性分析とは、企業の債務弁済能力を調べ、財務基盤の安全性を計る分析です。代表的な方法には、以下の3つがあります。

1.短期財務安全性分析

短期的な企業の支払能力の安全性を調べる手法。ここでいう短期とはおおむね1年以内を指し、代表的な指標には、「流動比率(短期的な会社の支払い能力を示すもの)」や「当座比率(流動資産のひとつである当座資産がどの程度あるかを示すもの)」がある。

2.長期財務安全性分析

長期的な企業の財務構造の安全性を調べる手法。代表的な指標には、「固定比率(自己資本に対する固定資産の比率)」や「固定長期適合率(長期資本(自己資本+固定負債)に対する固定資産の比率)」がある。

3.資本調達構造分析

資本の調達先に関する「自己資本比率」や「負債比率」などから資本構造の安全性を表すもので、長期財務安全性分析に含まれることもある。「自己資本比率」は総資本に対する自己資本の比率、「負債比率」は自己資本に対する負債の比率となる。なお、負債があるからといって「経営状況が良くない」とはいえない。重要なのは返済能力とのバランスが適正なのかという点であり、分析でしっかりと確認するべき事項。

3.生産性分析

生産性分析とは、利益を生み出すための企業資源である「ヒト」「モノ」「カネ」をどれだけ有効活用できているかを調べる分析です。主な指標には、以下の3つが挙げられます。

労働生産性

従業員1人当たりの付加価値額を示すもの。数値が高いほど従業員の生産性が高いとされるが、適正な値は業種によって大きく異なるため、競合他社と比較するとよい。

資本生産性

投入した資本に生じた付加価値を示すもの。数値が高いほど、効果的な資本投資ができているといえる。

労働分配率

付加価値に対する人件費の割合。40~60%が理想とされているが、適正値は業種や企業規模によって異なる。

4.成長性分析

成長性分析とは、企業の成長率や今後拡大する可能性を計る分析です。自社のみに着目するだけでなく、市場全体や競合企業とも比較して適正値を導き出します。代表的な指標は、以下の5つです。

売上高増加率

前期に比べて売上高がどのくらい伸びたかを示す

利益増加率

前期に比べて利益がどのくらい増えたかを示す

総資産増加率

前期に比べて総資産がどのくらい増えたかを示す

純資産増加率

前期に比べて純資産がどのくらい増えたかを示す

従業員増加率

前期に比べて従業員数どのくらい増えたかを示す

効率的に経営分析を行うための3つのポイント

経営分析を効率的に行うためには、どのような点に留意すればよいのでしょうか。3つのポイントを紹介します。

財務諸表データを正しく入力・管理する

経営分析の基本になるのは、財務諸表のデータです。基となるデータが間違っていれば、正しい分析結果は得られません。間違った分析結果を用いて経営戦略を練ると、経営判断を誤ったり、見当違いな施策となってしまったりするでしょう。財務諸表作成時には、ダブルチェック、トリプルチェックに努め、徹底してミスを防ぐことが重要です。

また、経営分析では、できる限り新しい情報が求められます。現状を反映していない古い情報で分析しても、効果が出にくいからです。一方で比較や推移を把握するためには、過去の財務諸表が必要です。そのため、最新のデータを迅速に共有することや、古いデータを保管する管理体制などが問われます。

自社に合った分析手法や指標を選定する

経営分析には多数の分析手法や指標が存在しますが、そのすべてに取り組む必要はありません。あれもこれもと手を出してしまうと、分析しにくくなるだけでなく、データを処理する経理担当者の負担も大きくなってしまいます。企業規模や事業内容によって選ぶべき手法や指標は異なるため、自社に適したものに絞って取り入れることも大切です。

分析ツールを活用する

効率的に経営分析を実施するためには、分析ツールを活用するとよいでしょう。経営分析のためのツールには、多様な機能を搭載するものから、財務諸表の作成といった一部機能に特化するもの、状況把握に役立つBIツールなど、さまざまなタイプが存在しています。新たなシステムの導入に不安がある場合には、エクセルのファイルをそのまま活用できるツールもあります。自社にとって使いやすいツールを導入していくことが重要です。

効率的な経営分析で企業経営を成功に導こう

経営分析は、自社の状況を正確に把握するために有効な手段です。強みは生かし、弱みは改善することで、健全で強靭な企業経営を実現できるでしょう。ただし、分析の手法や指標は幅広く、導き出せる結果もそれぞれ異なります。まずは、分析結果をどのように活用したいのかを明確にし、自社に適した手法や指標を選定することが重要です。

分析ツールを活用し、分析を効率化すれば、結果をいち早く経営判断に生かせるだけでなく、経理担当者の業務負担も軽減できます。正確で効率的な経営分析が、企業経営の安定化・事業拡大への一歩となるはずです。