令和5年度 税制改正のポイント
デロイト トーマツ税理士法人
幅 建介 / 味岡 貴英 / 石田 貴也
(7) 加重税制度の見直し
① 高額な無申告に対する無申告加算税等の割合の引上げ
申告期限までに申告がされなかった場合、国税は無申告加算税又は重加算税、地方税は不申告加算金又は重加算金が課されます。
今回の改正により、無申告加算税・不申告加算金について、納付すべき税額が300万円を超える部分に対して課される割合が引き上げられました。
区分 |
納付すべき税額の区分 |
改正前 |
改正後 |
法定申告期限等の翌日から 調査通知前までに課されるもの |
– |
5% |
同左 |
調査通知以後に、 かつ、更正予知する前に課されるもの
|
50万円以下 |
10% |
同左 |
50万円超300万円以下 |
15% |
同左 |
300万円超 |
25% |
更正予知以後に課されるもの
|
50万円以下 |
15% |
同左 |
50万円超300万円以下 |
20% |
同左 |
300万円超 |
30% |
② 一定期間繰り返し行われる無申告行為に対する加重措置の見直し
期限後申告等を行う場合、その申告等の前日から5年以内に同じ税目について無申告加算税等を課されたことがある税目について、その期限後申告等に基づいて課される無申告加算税等の割合が10%加重されます。
今回の改正により、期限後申告等の前事業年度及び前々事業年度に無申告加算税等が課された、あるいは賦課決定がされる税目についても、同様に10%加重されることになりました。
なお、上記のケースと併用されるものではないため、いずれにも該当する場合であっても、加重割合は10%となります。
加算税の区分 |
納付すべき税額の区分 |
加重措置の適用がない場合 |
加重措置(改正後)の適用がある場合 |
無申告加算税
(調査通知以後に、かつ、
更正予知する前に課されるもの)
|
50万円以下 |
10% |
20% |
50万円超 300万円以下 |
15% |
25% |
300万円超 |
25% |
35% |
無申告加算税
(更正予知以後に課されるもの)
|
50万円以下 |
15% |
25% |
50万円超 300万円以下 |
20% |
30% |
300万円超 |
30% |
40% |
重加算税
(無申告加算税に代えて課されるもの)
|
一律 |
40% |
50% |
- 適用時期
-
①、②のいずれも令和6年1月1日以後に法定申告期限が到来するものより適用されます。
(8) インボイス制度に係る見直し(少額な適格返還請求書の交付義務免除)
令和5年10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入されます。
これにより、買手が消費税の仕入税額控除を受けるために、適格請求書発行事業者である売手は「適格請求書」又は「適格簡易請求書」の交付が求められます。
また、売上後に返品や値引きなどにより、売上の返還を行った場合には、「適格返還請求書」の交付義務があります。
今回の改正により、適格請求書発行事業者が行う売上の返還等に係る税込金額が1万円未満の取引については、「適格返還請求書」の交付義務が免除されることとなりました。
これは、買手が仕入れ代金等を支払う際に振込手数料を売手負担として差し引く場合において、インボイス制度以降の実務対応として、
①売手の売上値引き、②買手からの支払手数料、③買手の売手に対する立替金のいずれかの処理方法が考えられます。
ここで①売手の売上値引きとして処理する場合、売手に適格返還請求書の交付義務が生じるため、この事務負担の増加を軽減するための措置となります。
■ 想定されるケース
売手が買手から対価を受け取る際に、振込手数料が差し引かれて振り込まれるケースが想定されます。
従来、この振込手数料については売手による費用負担と整理し、支払手数料などの勘定を用いて仕入税額控除を適用する処理が実務的に広く用いられています。
ただし、インボイス制度の導入後は、「適格請求書」等を受け取ることができない場合、仕入税額控除の適用を受けることができないこととなります。
しかし、この振込手数料相当額を売手による費用負担ではなく売上の値引きと整理することで、消費税の計算において売上の返還として取り扱うことができます。
売上の返還として取り扱う場合、通常であれば「適格返還請求書」の交付が必要となりますが、税込金額が10,000円未満の取引については交付義務が免除されます。
一般的には振込手数料は税込金額が10,000円未満となるケースが多くあるため、本改正はこのようなケースに焦点を当てたものと思われます。
- ■ 具体例
- 売上10,000円に対して300円の振込手数料が差し引かれて入金された場合の売手の処理は、以下のとおりに考えられます。
仕訳例①
借方科目 |
消費税区分 |
金額 |
貸方科目 |
消費税区分 |
金額 |
現金預金 |
(対象外) |
9,700 |
売掛金 |
(対象外) |
10,000 |
売上 |
(売上返還) |
300 |
|
|
|
仕訳例②
借方科目 |
消費税区分 |
金額 |
貸方科目 |
消費税区分 |
金額 |
現金預金 |
(対象外) |
9,700 |
売掛金 |
(対象外) |
10,000 |
支払手数料 |
(売上返還) |
300 |
|
|
|
※ 便宜上、税込金額で記載しています。
仕訳例②のように、売手が負担する振込手数料相当額について経理処理を支払手数料としつつ、消費税法上、売上に係る対価の返還等とすることもできます
(参照:財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」 問18 (令和5年3月31日時点 ))
- 適用時期
-
令和5年10月1日のインボイス制度の導入とともに適用されます。