• 2023. 11. 21
  • 税制改正ポイント   
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新リース会計基準(案)とは?
概要から改正ポイント、実施時期まで解説

新リース会計基準(案)とは?概要から改正ポイント、実施時期まで解説

2023年5月2日に日本の会計基準を策定する企業会計基準委員会(ASBJ)から発表された「リースに関する会計基準(案)」(新リース会計基準または改正リース会計基準)をきっかけに、日本のリース会計が大きく変わろうとしています。リースにまつわる会計基準に変更が生じることから、経理業務への影響も避けられないでしょう。

今回は、新リース会計基準(案)の概要から改正ポイント、実施時期までわかりやすく解説します。なお、本記事は2023年9月時点の情報を基に作成しております。

目次

新リース会計基準(案)とは?

そもそも「リース会計基準」とは、各種リース取引の種類や会計処理などについて定めた規定です。2007年3月30日にASBJによって公表されました。

その後、国際基準に沿う見直しが行われ、2019年1月1日以降の事業年度から適用されたのが「新リース会計基準」です。そして、2023年5月2日には、さらに踏み込んだ見直しが反映された「新リース会計基準(案)」が発表されました。

新リース会計基準(案)

リースで資産を借り入れた場合、その取引は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に大別されます。

2つのうち、2019年1月1日以降の事業年度から採用された新リース会計基準(国際基準)が適用されたのは、ファイナンス・リースのみでした。しかし2023年5月2日にASBJから公開された案では、オペレーティング・リースにも新リース会計基準を適用させることが提案されています。

新リース会計基準(案)が発表された背景

新リース会計基準(案)が発表された背景には、国際会計基準審議会(IASB)が公表した「IFRS第16号」と、米国財務会計基準審議会(FASB)が公表した「Topic 842」の存在があります。

これらでは、リースの借手に対する会計処理について、すべてのリースにおいて借手が使用権を資産計上しリース料の支払義務を負債計上する「使用権モデル」が採用されています。特に負債の項目において日本の会計システムと認識の違いが起きており、国際基準との整合性を確保するべく新しい会計基準の適用が進められているのです。

新リース会計基準(案)の実施時期は?

現段階ではリース会計基準(案)の適用時期は未定ではあるものの、早ければ2024年3月までに最終化され、2026年4月以降に開始される事業年度からの施行(準備期間は2024年4月~2026年3月)が見込まれています。

世界基準との乖離解消が期待され、海外投資家の投資判断において有利になると考えられることから、早期に導入したいのが実情でしょう。そのため、2026年度からの強制適用が最有力だと考えられています。

会計基準改正の主なポイントは?

ここからは、より新リース会計基準(案)の理解を深めるために、さまざまな角度から改正のポイントを探ります。

どのようなものがリース取引に該当するのか

まずは、どのような取引がリースになるのかを確認しておきましょう。

リース取引に該当するかどうかは、資産が特定されているか否か、および当該資産の使用支配権が貸手から借手に移転しているか否かで判断されます。そのため、一部の例外的な取扱を除き、ほぼすべての資産がリースに該当するようになるわけです。

この改正は、大型施設や高額資産を借りている場合に特に影響が大きいと予測されます。今までは賃貸借と認識していなかった取引がリース取引に該当するようになるため、注意が必要です。

公開されている草案において取り上げられているリース取引該当設例には、以下のようなものがあります。

  • 鉄道車両(特定された資産)
  • 小売区画(特定された資産)
  • ガスの貯蔵タンク(特定された資産)
  • ネットワーク・サービス(使用を指図する権利)
  • 電力(使用を指図する権利)

会計処理上のポイント

では、会計処理を行ううえではどのようなことがポイントになってくるのでしょうか。

原則的に、すべてのオペレーティング・リースにおいて、ファイナンス・リースと同様に資産と負債の計上が新たに求められるようになります。

現行の国内基準では、オペレーティング・リースは「資産」として計上せず、リース料を毎期の「費用」として計上していましたが、今回の改正からはファイナンス・リースと同様にバランスシートに計上(資産・負債に計上)されるようになるのです。減価償却とリースの負債に対する利息のコスト計算が契約満了まで続くことから、経理業務の負担が増加・複雑化すると予想されています。

表示・開示におけるポイント

続いて、表示・開示におけるポイントは以下のとおりです。

借手は、リースに係る資産として「使用権資産」と、リースに係る「リース負債」「利息費用」を表示・開示することになります。これらは個別財務諸表でも適用される点も押さえておきましょう。

投資家等のステークホルダーにとってはより実態に合った情報が入手できることになりますが、借手・貸手ともに開示量や項目が増加するため、決算資料作成の手間は増大すると見込まれています。

新リース会計基準(案)が企業に及ぼす影響

新リース会計基準(案)の実施によって、企業はどのような影響を受けるのでしょうか。考えられる影響は、以下のようなものがあります。

財務諸表に及ぼす影響

新リース会計基準(案)が実施されると、すべてのリース取引がバランスシート上に表示されるようになります。これにより企業の資産および負債が増加し、負債比率や資産回転率といった財務比率などが変動する可能性があります。

これまで費用として計上されていたリース料が減価償却費と支払利息に費用化されることで、1回に費用にできる金額自体は減少するわけです。支払利息は営業外費用であるため、営業利益は上がることとなるでしょう。

また、当然、これらの処理対応に伴う経理負担増大も懸念されます。

経営に及ぼす影響

新リース会計基準(案)の実施によって、リースと購入の比較や異なるタイプのリース契約の比較基準が大きく変化するかもしれないといわれています。この機会に、経理部門に限らず、企業全体としてのリース戦略が見直される可能性もあるでしょう。

また、貸借対照表も変わるため、金融機関における与信評価にも影響が及ぶことが予想されています。

会計システムの更新・変更や社内教育も必要

新たな制度が施行されるわけですから、当然ながら新しい計算方法やデータの収集・管理方法といったさまざまな作業フローの見直しや変更が必要となるでしょう。

例えば、ひとつのリース契約のなかには「リース契約」と「リースではない契約」が混同されていることがあります。今後、そのようなケースでは契約内容を分けて会計処理を行う必要が生じます。つまり、処理や作業自体が煩雑化すると考えられるのです。

フローや会計システムの更新だけでは対応が追いつかない場合には、新たな業務フローの構築やシステムの抜本的な変更も検討しなければならないでしょう。状況に合わせて、関係者の教育やトレーニング、サポートの実施も求められます。

新リース会計基準(案)への備えは2026年度までに!

2023年5月にASBJから発表された新リース会計基準(案)は、準備期間を経て、早ければ2026年4月ごろに開始される見通しです。今すぐに対応が必要というわけではないものの、法制への対応は企業の責務ですので、最新情報をこまめにチェックしながらしっかりと備えていきましょう。

今から会計システムの見直しや担当者への周知、教育をスタートすると、余裕を持って準備が進められるはずです。とはいえ、まずは理解を深めることと、自社への影響を把握することが重要です。一歩は早めに踏み出すことをおすすめします。