• 2023. 09. 07
  • 税制改正ポイント

令和5年度 税制改正のポイント

デロイト トーマツ税理士法人
幅 建介  /  味岡 貴英  /  石田 貴也

(2) 暗号資産の評価方法等の見直し

暗号資産の評価方法等について、見直しが行われました。

① 期末時価評価の対象となる暗号資産の範囲

法人税法上、内国法人が期末に有する活発な市場が存在する暗号資産については、期末時価評価課税の対象とされていますが、特定自己発行暗号資産は期末時価評価課税の対象外とすることとされます。

「特定自己発行暗号資産」とは、法人が自ら発行し、かつ、その発行の時から継続して有する暗号資産であり、一定の方法により発行時から継続して譲渡の制限その他の条件が付されているものをいいます。

期末時価評価の対象となる暗号資産の範囲

② 暗号資産の1単位当たりの帳簿価額等

以下の改正も行われています。

・自己発行暗号資産の取得価額について、その取得価額が発行に要した費用の額とする
・保有する暗号資産が特定自己発行暗号資産に該当しないこととなった場合のみなし譲渡規定が設けられる など

適用時期
上記①の改正は令和5年4月1日以後に開始する事業年度の所得に対する法人税について適用され、上記②の改正は法人が令和5年4月1日以後に取得する暗号資産について適用されます。

(3) 中小企業税制等の適用期限の延長及び内容の見直し

以下の適用期限の延長・内容の見直しが行われています。

① 中小企業者等の法人税の軽減税率の特例の適用期限の2年延長

中小企業者等の法人税の軽減税率として、所得年800万円以下の部分について19%とされています。 改正前においては、時限立法として、租税特別措置法によりさらに15%に引き下げられていますが、その適用期限を令和7年3月31日まで2年延長されました。

② 中小企業投資促進税制の見直しと適用期限の2年延長

次の見直しが行われた上、その適用期限が令和7年3月31日まで2年延長されました。

  • A 対象資産から、コインランドリー業(主要な事業であるものを除く)の用に供する機械装置でその管理のおおむね全部を他の者に委託するものを除外
  • B 対象資産について、総トン数500トン以上の船舶にあっては、環境への負荷の低減に資する設備の設置状況等を国土交通大臣に届け出た船舶に限定

③ 中小企業経営強化税制の見直しと適用期限の2年延長

中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(中小企業経営強化税制)について、対象資産から、 コインランドリー業又は暗号資産マイニング業(主要な事業であるものを除く)の用に供する資産で、その管理のおおむね全部を他の者に委託するものが除外された上、その適用期限が令和7年3月31日まで2年延長されました。

(4) その他の投資促進税制等

① オープンイノベーション促進税制

スタートアップ企業の出口戦略としてIPO 以外の選択肢を拡充するために、ニューマネー(払込み)を伴わない既存株式 (発行法人以外の者からの購入)の取得も対象とされました。 また、スタートアップの成長に真につながるよう、M&A から5年以内に成長率や投資規模等の要件を満たした場合にはその後も減税メリットを継続させる仕組みが設けられました。 これらにより、スタートアップの成長を強力に促すものとする改正となっています。

適用時期
上記改正は、令和5年4月1日以後に取得する株式について適用されます。

② デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制

令和5年4月1日前に認定の申請がされた事業適応計画に係る資産が対象から除外され、生産性の向上又は需要の開拓に特に資するものとして主務大臣が定める基準等の見直しが行われました。 また、適用期限が2年延長(令和7年3月31日までの期間内)されました。

令和5年4月1日前に認定の申請をした事業適応計画に従って同日以後に取得等する資産については、本制度は適用されませんので、ご留意ください。

適用時期
上記改正は、令和5年4月1日から令和7年3月31日までの間に取得し事業の用に供した一定の資産に適用されます。

③ 地域未来投資促進税制

承認地域経済牽引事業に係る要件の見直しが行われた上、その適用期限が令和7年3月31日まで 2 年延長されました。

適用時期
上記改正は、令和5年4月1日から令和7年3月31日までの間に取得等し事業の用に供した一定の資産に適用されます。

(5) 国際課税/組織再編に関する改正

① スピンオフ税制の拡充

スピンオフ(現物分配)を行う企業に持分の一部(20%未満)を残す場合においても一定の要件を満たす場合には課税を繰り延べることとする類型が追加されます。 なお、この場合、産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受ける必要があります。

適用時期
上記の改正は、令和5年4月1日から令和6年3月31日までの間に産業競争力強化法の事業再編計画の認定を受けた法人が同法の特定剰余金配当として行う現物分配で完全子法人の株式が移転するものについて適用されます。

② 株式交付についての特例の見直し

会社法の株式交付のうち一定のものにより子会社化した場合、株主における譲渡損益は、令和3年度税制改正により課税を繰り延べられることとされています(株式等を対価とする株式の譲渡に係る所得の計算の特例)。 株式交付制度の創設後、当該措置の制度趣旨(株式対価M&A の促進)とは必ずしもそぐわない活用事例が確認されていたことを背景として、今般の改正において課税繰延べ要件について一定の厳格化が行われ、 当該措置の対象から、株式交付後に株式交付親会社が同族会社(非同族の同族会社を除きます)に該当する場合が除外されます。

適用時期
上記の改正は、令和5年10月1日以後に行われる株式交付について適用されます。

③ グローバル・ミニマム課税への対応

令和5年度税制改正では、令和3年10月にOECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において合意されたグローバル・ミニマム課税へ対応するため、各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税等の創設が行われました。 その基本的な仕組みは、年間総収入金額が7億5,000万ユーロ相当額以上の多国籍企業グループ等を対象に、一定の適用除外を除く所得について各国ごとに最低税率15%以上の課税を確保するものとなります。

適用時期
内国法人の令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度より適用されます。

④ 外国子会社合算税制の見直し

上記③の創設による企業の追加的な事務負担を考慮して、外国子会社合算税制等について以下の見直しが行われます。 改正により、法定税率が27%~30%となっているドイツ、韓国、米国(カリフォルニア州、ニューヨーク州)等に所在するペーパーカンパニー等につき、 合算課税の要否の確認作業に係る企業の事務負担が軽減される可能性があります。
(出所:経済産業省 「経済産業関係 令和5年度税制改正について」56項)

項目 改正後
合算課税の対象となる外国子会社の絞込み
  • 特定外国関係会社の合算課税要否の判定について、判定要件である租税負担割合が改正前の30%から27%に引き下げられる
確定申告時における書類の添付義務の緩和
  • 租税負担割合が20%未満であるものの、部分合算課税が免除される(生じない場合を含む)外国関係会社について、改正前において課されていた一定の書類(貸借対照表、損益計算書等)の確定申告書への添付義務が保存義務に改正される
  • 確定申告書に添付することとされている外国関係会社の株主等の氏名、住所等の詳細を記載した書類に代えて、これらを記載した一定の系統図を添付することができることになる
適用時期
内国法人の令和6年4月1日以後に開始する事業年度について適用されます。