• 2026. 01.23
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予算統制とは?
上場準備に必要な予算管理の流れと体制づくりを解説

予算統制とは?上場準備に必要な予算管理の流れと体制づくりを解説

予算統制とは、策定した予算と実績の差異を分析し、その結果を次のアクションにつなげていく仕組みです。単なる予算管理にとどまらず、経営戦略と現場活動を結びつける役割を担います。特にIPO(株式上場)を目指す企業では、予実管理の精度が審査で厳しく問われます。体制整備が遅れると、必要な改善が間に合わず、審査プロセスの停滞につながることもあります。

しかし現場では「予算統制」「予算管理」「予実管理」の違いが曖昧なまま運用されていたり、差異分析が改善につながらないケースも多く見られます。また、Excel管理の限界により、月次決算が遅れ、経営判断の遅延につながっている企業もあります。

本記事では、予算統制の基本概念から予実管理プロセス、そしてIPOに向けた体制構築のポイントまで解説していきます。

目次

予算統制の基本と関連用語

予算統制の役割を正しく理解することで、経営戦略と連動した予算運営が可能になります。まずは、予算管理・予算統制の違いや、関連する基本用語を整理しましょう。

予算統制とは

予算統制とは、策定した予算に対して実績がどの程度進捗しているかを継続的に確認し、必要な改善行動につなげるための管理プロセスです。単に数値の差異を見て終わるのではなく、原因分析と対策実行まで一貫して行う点が特徴です。

予算統制は、次のような役割を果たします。

  • ・目標達成に向けた進捗管理:差異を早期に把握し、迅速に軌道修正できる
  • ・経営資源の最適配分:ボトルネックを把握し、人員や投資を効果的に配分できる
  • ・説明責任の遂行:特に上場・上場準備企業では投資家や監査法人へ適切に説明できる

こうした役割を通じて、企業が計画に基づいて着実に成長していくための基盤となります。

予算管理・予実管理・予算編成との違い

予算統制と関連する用語として、予算管理・予実管理・予算編成があります。似た言葉ですが、それぞれ担う範囲が異なります。まず全体像を整理すると次の通りです。

  • ・予算管理:予算編成から予算統制までを含む包括的な活動
  • ・予実管理:予算と実績の差異を把握・報告する活動
  • ・予算編成:事業計画に基づいて予算を策定する活動

この中で予算統制は、差異分析を踏まえて経営活動を調整する役割を持ち、予算管理の中心的な位置付けとなります。

用語 意味・範囲 主な役割 関係性
予算管理 予算策定〜実績管理まで全体を統括 仕組み全体の運営 最も広い概念
予算統制 差異の原因を分析し改善へつなげる 目標達成に向けた進捗・改善 予算管理の中心
予実管理 予算と実績の比較・報告 進捗把握と差異の可視化 予算統制の一部
予算編成 次期予算の策定 計画づくりの起点 最初のステップ

予算統制が企業経営で重要な理由

予算統制が企業経営で重要視される理由は、次の3点に整理できます。

  • ・目標達成の精度が高まる:差異を早期に把握し、迅速に軌道修正できる
  • ・経営資源を適切に配分できる:部門別の状況把握により投資判断が最適化される
  • ・上場審査へ対応できる管理体制が整う:管理規程や報告体制の整備につながる

こうした仕組みにより、企業は変化に強い計画経営を実現できます。

予算統制における予算管理のプロセス

予算統制を実効的に運用するには、予算編成から改善までを一貫して管理する必要があります。その考え方の基本となるのが、PDCAサイクルです。

【Plan】予算編成:実現可能で意味のある計画をつくる

予算統制は、経営計画に基づき次年度の売上・利益目標を部門別・月別に落とし込むことから始まります。ここで設定する数値が、後の分析精度や改善施策の妥当性を左右します。

予算の策定方法には、トップダウン方式とボトムアップ方式の2つがあります。

  • ・トップダウン方式:短期間で編成できる一方、現場の実情と乖離する恐れがある
  • ・ボトムアップ方式:実現可能性が高い一方、調整負担が大きくなりやすい

多くの企業では両者を組み合わせることで、戦略と現場感のバランスを取っています。

予算編成時には、売上予算、原価予算、経費予算、利益予算を部門別・月別に作成します。売上予算は過去実績や市場動向を踏まえて設定し、原価予算は売上予算に連動させます。経費予算は人件費、販売費、一般管理費に分けて積算し、最終的に営業利益や経常利益の目標を算出します。

【Do】実績把握:迅速な情報把握が経営判断のスピードを決める

予算編成後は、各部門が予算に沿って事業活動を実行します。この段階で重要なのが、実績データを正確かつ素早く把握する仕組みです。とくに上場準備企業では、月次決算の遅れがそのまま経営判断の遅れにつながり、審査の観点でもマイナスとなります。

実績データは、売上・原価・経費などを部門別に集計し、計画との進捗状況を視覚化します。間接費の配賦ルールは予算編成時と統一し、差異の発生源を明確にできるようにすることがポイントです。

さらに、大型案件や新規事業といった業績インパクトの大きい領域は、月次だけでなく、週次など短いサイクルでモニタリングすることで、リスクの兆候を早期に捉えられます。先手の対策を講じられるかどうかが、計画達成の確度を大きく左右する要因となります。

【Check】予実差異分析:数字の裏にある原因を特定し、対策に結びつける

実績把握ができたら、予算との差異を分析します。ここで重要なのは、数値の差そのものではなく、その背景にある原因を見極めることです。

差異分析の基本は、売上差異と費用差異に分けて把握することです。売上差異は、数量差異(販売数量の増減)と単価差異(販売単価の増減)に分解して分析します。例えば、売上が予算比でマイナスでも、数量は達成しているが単価が下がっているのか、数量自体が未達なのかで、取るべき対策が異なります。

費用差異も同様に、変動費差異と固定費差異に分けます。変動費は売上高との連動性を確認し、売上高変動費率が予算と乖離している場合には、原価管理の見直しが必要です。固定費は予算との絶対額の比較となりますが、計画外の支出が発生していないか、逆に必要な投資が実行されていないかを確認します。

また、金額だけでなく差異率も重要な判断材料です。一般的に差異率5%超の項目は重点的に原因を深掘りし、適切な対策を検討します。分析結果は経営会議や取締役会で共有され、意思決定の根拠として活用されます。

【Action】改善:明確なアクションにつなげ、次期につなぐ

予実差異分析で明らかになった課題に対しては、速やかに改善策を実行します。差異が一時的な要因によるものか、構造的な問題によるものかを見極めることが重要です。

季節変動や大型案件の受注時期のずれなどの一時要因であれば、翌月以降での挽回が見込めます。一方で、市場環境の変化や競争の激化といった構造的な問題が背景にある場合は、予算の見直しや事業戦略の修正といった踏み込んだ対応が求められます。

改善策を実行する際は、担当者、期限、数値目標を明確にし、進捗を定期的にモニタリングします。効果が出ていない場合には、追加施策を検討し、柔軟に対応することが統制力強化につながります。

また、改善過程で得られた知見は次期の予算編成に反映させます。恒常的に差異が発生する項目については、目標設定方法や業務プロセスを見直し、予算精度の向上につなげます。

上場準備企業が整備すべき予算統制体制

IPO審査では、予算策定から進捗管理、予実差異分析までの運用が実効性を持って機能しているかがチェックされます。上場基準に適合するために、どのような体制を整備すべきか解説します。

上場審査で重視される予算統制の観点

上場審査では、企業が経営計画に基づいて事業運営できているかが重要な確認事項とされています。そのため、予算統制を含む経営管理体制を整備し、継続的に運用していることが評価されやすいポイントとなります。

実務では、上場準備の初期段階から予算統制の仕組みづくりに着手し、運用実績を積み重ねていくことが推奨されるケースが一般的です。

予算管理規程の策定と運用ルールの明確化

予算統制を組織的に機能させるためには、予算管理規程を整備し、運用ルールを明確にしておくことが重要です。規程は予算統制の基準となるもので、次の内容を整理しておきます。

  • ・目的・適用範囲:対象とする組織・数値
  • ・編成ルール:予算の種類、前提条件、根拠の示し方
  • ・スケジュール:開始時期、承認プロセスの明確化
  • ・運用ルール:月次予実管理の手順や役割分担
  • ・変更手続き:期中修正や見直しの基準

たとえば、「毎年10月に予算編成を開始し、12月の取締役会で承認」「月末締め後10営業日以内に実績を確定し、翌月の経営会議で報告」など、具体的なフローまで定めておくとスムーズです。

また、規程は策定した時点がゴールではありません。実際の運用に合わせて定期的に見直しを行い、形骸化を防ぐことが大切です。規程と現場運用が乖離すると、統制の実効性が発揮できなくなるため注意が必要です。

組織体制と役割分担の設計

予算統制を効果的に機能させるには、明確な組織体制と役割分担が必要です。

経営企画部門

全社予算の統括役を担います。予算編成方針の策定、各部門との調整、経営層への報告を通じて、全社の数字と経営方針をつなぐハブ機能を果たします。

各事業部門

現場に最も近い立場から、自部門の予算案を策定し、予実の一次分析を行います。差異が生じた際は、その要因や対応策を整理し、改善に向けた行動を主体的に担います。

経理部門

実績データの集計と検証を行い、正確でタイムリーな情報を提供します。月次決算の早期化や配賦ルールの統一など、差異分析の前提となる数字の信頼性確保が役割です。

経営層(社長・取締役会)

予算の最終承認を行い、予実報告を受けて対応方針を判断します。経営層が予算統制の重要性を明確に示すことで、組織全体のコミットメントが高まります。

小規模企業の場合

経営企画と経理が兼務の場合もありますが、上場準備の進展に応じて専任体制を設ける例が一般的です。担当者や運用プロセスが整っているほど、予算統制の実効性が高まりやすくなります。

月次・週次での予実管理サイクルの構築

予算統制を機能させるには、数値を把握するだけでなく、改善アクションにつなげる運用サイクルを確立することが重要です。基本的には、月末締め後できるだけ早期に実績を確定し、部門別に予実差異を分析します。そのうえで、月次経営会議で差異の原因と対応方針を議論し、進捗を継続的に確認していくことで、改善の実効性を高めることができます。

また、全社業績への影響が大きい大型案件や新規事業については、週次など短いサイクルでモニタリングすることも有効です。課題を早期に把握し、リスクが顕在化する前に手を打てる可能性が高まります。ただし、管理対象を広げすぎると現場負担が増えるため、重要度に応じて管理頻度を使い分けることがポイントです。

予算統制のポイントと注意点

制度があっても運用されなければ効果は発揮されません。ここでは、予算統制の実効性を高めるための運用面のポイントを解説します。

予算統制を機能させるための4つの視点

予算統制を十分に機能させるためには、制度設計だけでなく、組織としてどのように運用していくかが重要です。とくに次の4つの視点を押さえておくことで、形骸化を防ぎ、実効性の高い予算統制を実現できます。

① 目的を明確にし、全社で共有する

予算統制が何のために存在するのか、経営層が明確に示し、各部門が自分事として取り組める状態をつくります。「達成の責任」と「改善の権限」をセットで与えることが重要です。

② 前提条件と根拠を明確にする文化を根づかせる

予算は数値だけでなく背景となる前提の共有が不可欠です。売上見通し、コスト構造、改善施策の実現可能性など、「なぜその数値なのか」を説明できる状態を基準とします。

③ 差異分析と改善アクションを定例化する

月次の差異確認だけで終わらせず、原因特定 → 対応策 → フォローアップまでを継続的に行います。改善状況を次回会議で確認する習慣が、統制力強化に直結します。

④ 組織全体の意識づけとコミットメントを高める

予算統制を形骸化させないためには、経営層が重要性を明確に発信し、現場が成果に責任を持つ文化が欠かせません。成果を出した部門を評価する仕組みも有効です。

予算統制でよくある失敗パターン

予算統制を導入しても十分に機能していない企業には、次のような失敗パターンが見られます。

① 運用が継続せず、予算が形骸化する

月次の予実差異は集計しているものの、会議では「数字の読み上げ」で終わり、改善アクションに繋がっていません。結果として、年度末になって未達が判明するケースが多発します。

② 計画精度が低く、差異が常態化する

達成率が毎月大きくぶれる状況では、そもそも予算の根拠が弱い可能性があります。差異の原因が改善されず、数字が経営判断に活かされていません。

③ 部門間で予算に対する意識が揃っていない

営業部門は達成責任を強く意識している一方で、管理部門では数字が担当外と認識されているケースがあります。このように部門間で予算に対する温度差が生じていると、全社として統制が機能しにくくなります。評価制度や報酬と予算達成が連動していないことが一因となっている場合もあります。

④ Excel管理に限界が生じている

複数部門からファイルを回収し、毎月集計し直す運用では、作業負担が大きく、転記ミスも発生しやすくなります。その結果、分析や改善に時間を割く余裕がなくなり、統制の実効性が低下します。


これらの課題に共通するのは、仕組みがあっても「改善サイクルを回せる環境」が整っていない点です。

システム・ツールの活用と導入判断

予算統制の精度とスピードを高めるうえでは、システムの活用が欠かせません。ただし、導入によって解決すべき課題が明確でなければ、投資効果は得られません。

初期段階では、Excelでの予算管理から始める企業が多くあります。柔軟性が高く、初期投資も不要な一方で、部門数や管理項目が増えるにつれ、集計作業やファイル管理の負荷が急増します。

例えば、下記のような状況が見られたら、仕組みの見直しが必要となるタイミングです。

  • ・複数の事業部が存在する
  • ・月次決算の締め作業が遅れがち
  • ・差異分析に十分な時間が割けない
  • ・転記・集計に人的ミスが発生している

一方で、システム導入は目的化しては意味がありません。運用ルールや部門の役割分担が整った段階で導入することが成功の前提となります。クラウド型システムであれば、基本機能から段階的に活用範囲を広げることも可能です。上場準備企業では監査法人からIT統制強化を求められることも多いため、実務負荷の軽減と統制力の向上を両立するシステム化を視野に入れる必要があります。

予算管理に関するシステムについては「予実管理システムで何ができる?導入のメリット・デメリット、選び方を解説」で詳しく解説しています。

段階的な予算統制体制の強化方法

予算統制は、一度に完璧な仕組みを導入するのではなく、組織の成熟度に応じて段階的に強化していくことが現実的です。

第1段階:予算統制の導入期

年度予算と四半期単位の予実管理から開始し、まずは全社レベルでの進捗把握と差異分析を行える体制を整えます。Excelでの管理でも対応可能な段階です。

第2段階:運用定着期

月次での予実管理に移行し、部門別管理を開始します。部門長が自部門の数値に責任を持ち、経営会議で改善アクションを共有する仕組みを定着させます。

第3段階:統制強化期

予算管理規程の整備により、運用ルールを文書化します。属人的な運用を排除し、予算の承認フローや報告基準を統一します。この段階でシステム導入を検討します。

第4段階:高度化期

重要案件の週次管理や、中期経営計画との連動、評価制度への反映など、統制を経営の中核へと進化させます。上場準備企業では、この段階に到達していることが望まれます。

段階的に進めることで、現場負荷を抑えながら、統制の実効性を高めることができます。

計画的な予算統制で経営の質を高める

予算統制は、単なる数字の管理ではなく、企業が目標達成に向けて組織全体で取り組むための仕組みです。本記事で紹介した予算管理プロセスと体制整備のポイントを参考に、自社の現状を見直し、段階的に予算統制体制を強化していきましょう。特に上場準備企業においては、早期から予算管理規程の整備や月次での予実分析サイクルを確立しておくことで、審査を円滑に進められます。

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