- 2024. 12. 27
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EBITとは?営業利益やEBITDAとの関係や実務での活用方法・注意点をわかりやすく解説
企業価値評価において、資金調達方法や税制の違いが企業間の純粋な比較を難しくしています。この課題を解決する指標としてEBIT(イービット)が注目を集めています。EBITは、企業の純粋な事業価値を評価できる一方で、営業利益やEBITDAとの違いがわかりにくく、実務での使い分けに悩む方も多いのではないでしょうか。本記事では、EBITの特徴や計算方法とともに、関連指標との違いや活用メリット、実務での注意点までを幅広く解説します。
- 目次
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EBITとは?
EBIT(Earnings Before Interest and Taxes)は、直訳すると「利払前・税引前利益」を意味します。企業の純粋な事業活動による収益力を測る指標として使用されています。
EBITは以下の2つの計算方法で算出することが可能です。
EBIT = 税引前当期純利益 + 支払利息(純額、受取利息があれば差し引く)
または
EBIT = 営業利益 + 営業外収益 - 営業外費用(支払利息を除く)
EBITが重視される背景
EBITが企業価値評価の現場で重視される理由は、純粋な事業価値の評価を可能にする特性にあります。以下の2つの要因による影響を除外できる点が特徴です。
 ・資金調達構造の違い:借入金の多寡による金利負担による影響を排除できます。
 ・国や地域の税制度の違い:国や地域による税率の違いによる影響を排除できます。
特にM&Aや企業価値評価の場面において、事業の本質的な収益力を評価する指標として活用されています。
EBITと営業利益・EBITDAの違い
EBITは営業利益やEBITDAと混同されやすい財務指標です。それぞれの違いを詳しく解説します。
営業利益との違い
営業利益は、企業の本業での収益力を表す最も基本的な指標です。支払利息や税金を差し引く前の金額で、企業が本業で稼いだ利益です。部門や事業ごとの採算性を見る際の基本となります。次の計算方法で算出します。
営業利益 = 売上高 - 売上原価 - 販売費及び一般管理費(減価償却費を含む)
EBITと営業利益の大きな違いは計算範囲にあります。営業利益は本業の収益のみを対象としますが、EBITは営業外の収益や費用も含みます(ただし支払利息は除きます)。例えば、EBITには、保有する投資有価証券からの配当収入や為替差益などの営業外項目もEBITの計算に含まれます。
EBITDAとの違い
EBITと混同されやすい指標に、EBITDA(Earnings Before Interest Taxes, Depreciation and Amortization、イービットディーエー)があります。次の計算式で算出されます。
EBITDA = EBIT + 減価償却費
または
EBITDA = 営業利益 + 減価償却費 + のれん償却額
減価償却費とは、工場や機械設備などの固定資産の価値減少を費用として計上したものです。また、のれん償却額とは、M&Aの際に発生する買収価格と純資産の差額を一定期間で費用化したものを指します。
EBITDAは、金利負担の影響に加えて、減価償却費という実際には現金支出を伴わない費用も戻し加算します。そのため、EBITDAはEBIT・営業利益と比べて、より実際のキャッシュフローに近い企業の収益力を表す指標となっています。特に、会計基準の異なる海外企業や、設備投資が多く減価償却負担の大きい企業を比較・分析する際に適しているといえるでしょう。
利益を評価する指標は、下記の記事で詳しく解説しています。
NOPATとは?計算方法やNOPLATとの違い、実務での活用例をわかりやすく解説
EBITを活用するメリット
実務においてEBITを活用するメリットについて解説します。
財務戦略・税制の違いを排除できる
同じ業界でも、借入金を活用して事業を展開する企業と、自己資本を重視して経営する企業が存在します。また、グローバルに事業を展開する企業では、国・地域ごとに税率が異なります。EBITは金利負担や税金の影響を除外するため、こうした違いに左右されることなく、事業本来の収益力を比較することが可能です。
事業の本質的な収益力を評価できる
EBITは、本業の営業利益に、営業外の収益を加え、営業外費用(支払利息を除く)を差し引いて算出します。そのため、企業の事業活動全体から生み出される収益力を総合的に評価できます。
特にスタートアップ企業の評価において、この特徴は重要な意味を持ちます。スタートアップ企業は、成長初期に多額の借入や資金調達を行うことが一般的で、支払利息の影響で純利益が低く表示される傾向にあります。EBITを用いることで、資金調達の影響を除外し、事業の本質的な収益力を評価することができます。
EBITを活用する際の注意点
EBITの活用にはメリットがある一方で、以下の点に注意が必要です。
業種による適正水準の違いを理解する
製造業とサービス業では、事業特性の違いからEBITの適正な水準が大きく異なります。例えば、製造業は工場や設備への投資が必要なため、一般的にEBITの水準は低くなる傾向にあります。一方、サービス業は大規模な設備投資が少ないため、相対的に高い水準となることが多いです。そのため、他業種との単純な比較は適切ではなく、同業他社との比較の中でEBITを評価することが重要です。
EBITだけの評価に頼らない
EBITは有用な指標ですが、企業の財務状態を完全に表現できるわけではありません。より精度の高い実態把握には次の観点が必要です。
金利負担の性質を見極める
EBITの分析では、除外される支払利息の性質を慎重に確認する必要があります。企業の成長投資に関連する金利負担なのか、運転資金確保のための借入金利なのかで、その評価は大きく異なってきます。特に資金繰りのための借入が多い企業では、EBITが実態以上に良好に見える可能性があります。
一時的な特殊要因を把握する
EBITは特別損益を含まないため、事業の構造改革や固定資産の売却など、一時的な損益の影響を把握できません。例えば、大規模なリストラクチャリングを実施している企業や、重要な資産の売却を行った企業の分析では、こうした一時的な要因がEBITに含まれていない点に注意が必要です。
このように、EBITには把握できない要素があるため、分析の目的に応じて、複数の指標を組み合わせた総合的な分析が重要です。
企業の経営分析については、下記の記事で詳しく解説しています。
経営分析の5つの手法や見るべき指標、効率的に行うポイントまで解説!
EBITと営業利益・EBITDAの特徴を理解し目的に応じて活用しよう
EBITは、企業の純粋な事業価値を評価するうえで重要な財務指標です。財務戦略や税制の違いを排除でき、事業に関連する収益を幅広く含められることから、特に企業価値評価やM&Aの場面で活用されています。ただし、業種ごとの特性による違いや一時的な特殊要因の影響には注意が必要です。分析の目的に応じて、営業利益やEBITDAなど他の指標と組み合わせて活用することで、より正確な企業分析が可能です。