• 2022. 08. 03
  • 税制改正ポイント

2022年度 税制改正のポイント

デロイト トーマツ税理士法人
幅 建介  /  味岡 貴英  /  石田 貴也

1. はじめに

皆様、こんにちは。デロイト トーマツ税理士法人です。 今回は2022年度の税制改正について解説いたします。 今回の税制改正では、「成長と分配の好循環の実現」が掲げられ、そのための税制措置や、経済社会の構造変化を踏まえた税制の見直しが行われています。 このコラムでは、改正内容のうち特に読者の皆様に関連があり重要と思われる内容を、図や表を織り交ぜてできるだけわかりやすくご説明いたします。 税制改正に対する読者の皆様のご理解の一助となれば幸いです。

2. 2022年度 税制改正のポイント

今回の法人関連の税制改正では、積極的な賃上げ等を促すため、いわゆる「賃上げ税制」について見直しが行われています。 その実効性を高めるため、一定の租税特別措置の適用停止措置が強化されました。また、企業の事務負担軽減等を目的に、完全子法人等からの配当等について源泉所得税の徴収が廃止されることとなりました。

納税環境及び手続については、納税者の電子帳簿保存法への対応状況を踏まえ、電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存について2年間の宥恕措置が設けられています。 そのほか、電子帳簿保存法で有効とされるタイムスタンプの要件の変更、過少申告加算税等の加重措置の導入、消費税インボイス制度の登録手続きの見直しがされていますので、実務で対応すべきポイントを中心にご説明いたします。

<目次>
  • (1) 賃上げ税制の見直し
  • (2) 大企業についての一定の租税特別措置の停止措置の見直し
  • (3) 完全子法人株式等に係る配当等についての源泉徴収の廃止
  • (4) 大法人に対する法人事業税所得割の税率の見直し
  • (5) 期限切れとなる措置の延長・見直し等
  • (6) グループ通算制度・国際課税・組織再編の見直し
  • (7) 電子帳簿保存法の見直し
  • (8) 過少申告加算税等の加重措置の整備
  • (9) インボイス制度の登録手続き等の見直し

(1) 賃上げ税制の見直し

企業の積極的な賃上げを促す観点等から、大企業向けの人材確保等促進税制の適用要件が、継続雇用者に対する給与等支給額の増加に着目した税額控除制度とされました。 また、賃上げや教育訓練に積極的な企業については、税額控除率が上乗せされます。中小企業における所得拡大促進税制については、税額控除率の上乗せ措置が見直された上、適用期限が1年延長されます。

■人材確保等促進税制の抜本的見直し (大企業向け)
項目 改正前 改正後
適用要件

① 賃上げ要件

A 雇用者給与等支給額>前期の雇用者給与等支給額 同左 控除対象雇用者給与等 支給増加額の15%又は20% (③の上乗せ)
B 新規雇用者給与等支給額≧前期の新規雇用者給与等支給額×102% 継続雇用者給与等支給額≧前期の継続雇用者給与等支給額×103%

② 賃上げ要件 (上乗せ)

①のA 控除対象雇用者給与等支給増加額の25%又は30% (③の上乗せ)
継続雇用者給与等支給額≧前期の継続雇用者給与等支給額×104%

③ 教育訓練要件 (上乗せ)

教育訓練費≧前期の教育訓練費×120% 同左 税額控除率に5%加算
■所得拡大促進税制の見直し(中小企業者向け)
項目 改正前 改正後
適用要件

① 賃上げ要件

雇用者給与等支給額≧前期の雇用者給与等支給額×101.5% 同左 控除対象雇用者給与等支給増加額の15%又は25%(③の上乗せ)

② 賃上げ要件(上乗せ)

雇用者給与等支給額≧前期の雇用者給与等支給額×102.5% 控除対象雇用者給与等 支給増加額の30%又は40%(③の上乗せ)

③ 教育訓練要件 (上乗せ)

雇用者給与等支給額≧前期の雇用者給与等支給額×102.5% 教育訓練費≧前期の教育訓練費×110% 税額控除率に10%加算
以下のいずれかの要件を満たす
  • A) 教育訓練費≧前期の教育訓練費の年平均額×110%
  • B) 期末日までに中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受け証明されたもの
■対象法人・税額控除限度額
項目 内容
大企業向け 中小企業向け
対象法人 右記以外の青色申告法人(設立事業年度は対象外) 青色申告書を提出する中小企業者等(*1)(設立事業年度は対象外)
資本金の額等が10億円以上であり、かつ、常時使用する従業員の数が1,000人以上である場合には、給与等の引上げ方針等をインターネット経由で公表したことを経済産業大臣に届け出ていること
税額控除限度額 当期の法人税額の20%

(*1)ここでいう中小企業者等とは、中小企業者(適用除外事業者を除く)又は農業協同組合等をいう。中小企業者及び適用除外事業者については下記参照。

中小企業者
  • 資本金の額又は出資金の額が1億円以下の法人(以下に掲げる法人を除く)
    a. 発行済株式総数又は出資総額の1/2以上が、同一の大規模法人(*2)の所有に属している法人
    b. 発行済株式総数又は出資総額の2/3以上が大規模法人(*2)の所有に属している法人
  • 資本又は出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人以下の法人
  (*2)
大規模法人
資本金の額又は出資金の額が1億円を超える法人、資本若しくは出資を有しない法人のうち常時使用する従業員の数が1,000人を超える法人 又は大法人(資本金の額又は出資金の額が5億円以上である法人等)との間にその大法人による完全支配関係がある普通法人をいい、中小企業投資育成株式会社を除く。
適用除外事業者 事業年度開始の日前3年以内に終了した各事業年度(基準年度)の所得の金額の年平均額が15億円を超える法人
適用時期

2022年4月1日から2024年3月31日までの間に開始する各事業年度に適用されます。

大企業向け賃上げ税制では、令和3年度税制改正で、増加割合の判定の基準が「新規雇用者給与等支給額」へ変更されましたが、今回の改正で、再び「継続雇用者給与等支給額」を基準とした判定となります。 中小企業者向け賃上げ税制では、適用要件の緩和・控除割合の拡充が行われています。頻繁に改正が行われているため、毎期、適用事業年度における判定基準等をご確認下さい。

(2) 大企業についての一定の租税特別措置の停止措置の見直し

所得が拡大しているにもかかわらず、賃上げにも投資にも消極的な、一定規模以上の大企業に対する研究開発税制その他の一定の税額控除の停止措置(いわゆるムチ税制)について、図のような要件の強化が行われました。

資本金の額等が10億円以上で常時使用従業員数が1,000人以上であり、かつ、前事業年度の所得金額が零を超える一定の場合の、 いずれにも該当する法人が、一定割合以上の賃上げを行っていない場合、当該停止措置の対象法人となるため注意が必要です。

大企業についての一定の租税特別措置の停止措置の見直し
適用時期
2022年4月1日から2024年3月31日までの間に開始する事業年度について適用されます。