- 2024. 11. 20
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安全性分析における5つの指標とは?基礎知識や活用時の注意点を解説
企業の財務状況を評価する上で、安全性分析は欠かせない手法です。しかし、実際の分析となると、正しい分析手法や解釈に不安を感じることもあるでしょう。本記事では、安全性分析の基本から代表的な5つの重要指標、分析時の注意点までをわかりやすく解説します。
- 目次
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安全性分析とは
安全性分析とは、企業の財務健全性を決算書から評価する重要な手法です。ここでいう財務健全性とは、短期的には日々の運転資金や借入金の返済に問題がないこと、長期的には継続的に事業を運営できる財務構造を持っていることを指します。
この分析では、主に貸借対照表と損益計算書のデータを活用し、複数の財務指標を用いて多角的に検証を行います。これらを分析することで、企業が安定的に事業を継続できるかを財務面から判断します。
安全性分析の主な目的
安全性分析の主な目的は、企業の潜在的な財務リスクを特定し、その影響度を評価することです。短期および長期の債務返済能力を確認し、企業の資金調達方法と資産構成のバランスを分析し、企業の財務構造の強靭性と将来の安定性を総合的に判断します。
安全性分析が重要な理由
安全性分析は、表面的な収益性だけでなく、企業の真の財務実態を理解するうえで非常に重要です。安全性分析を適切に行うことで、次のようなことが可能です。
黒字倒産の予防
収益を上げていても資金繰りの悪化で倒産する「黒字倒産」のリスクを事前に把握できます。例えば、売上は増加しているものの、売掛金の回収が遅れている場合、キャッシュフローが悪化し、運転資金が枯渇するリスクがあります。安全性分析により、このような状況を早期に発見し、対策を講じることができます。
潜在的なリスクの発見
売上増加中でも、さまざまな潜在的リスクが隠れている可能性があります。例えば、過剰在庫による資金の固定化や、急激な事業拡大に伴う固定資産への過剰投資が、長期的な財務構造の不安定化につながる可能性があります。有利子負債の増加による金利負担の上昇リスクなども、表面的な収益性だけでは見えにくい問題です。安全性分析を通じて、これらの潜在的リスクを特定し、適切な対応を取ることができます。
安全性分析の5つの重要指標
安全性分析で用いられる重要指標のうち、代表的な指標を5つ紹介します。
自己資本比率
自己資本比率 = 自己資本 ÷ 総資産 × 100
企業の長期的な安全性を示す指標で、総資産のうち自己資本がどれだけの割合を占めているかを表します。自己資本比率が高いほど、企業は他人資本(借入金など)に依存せず、自己資本(株主資本や内部留保)で運営されていることを示します。業種・企業規模によって自己資本比率の平均は異なります。
中小企業実態基本調査「令和5年確報(令和4年度決算実績)」によると、全産業加重平均値は 41.71%でしたが、業種によって大きなばらつきがあることがわかります。高い傾向にあるのは「情報通信業」(54.87%)や「学術研究、専門・技術サービス業」(52.29%)です。一方で、「宿泊業、飲食サービス業」(16.16%)や「小売業」(35.06%)は比較的低い傾向にあります。
出典:中小企業実態基本調査 令和5年確報(令和4年度決算実績)
一般的に50%以上あれば良好な状態といえますが、30%程度がひとつの目安となりますが、業界特性や事業モデルによって適正な水準が異なることを留意しましょう。
流動比率
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
企業の短期的な支払能力を示す指標です。1年以内に現金化できる資産が、1年以内に支払うべき負債をどれだけカバーできるかを表します。200%以上が望ましいとされますが、業種により異なります。高いほど支払能力が高く、低いと資金繰りに不安があると考えられます。業種によって適切な流動比率は異なるため、同業他社との比較が重要です。例えば、製造業では在庫が多いため流動比率が高くなる傾向がありますが、サービス業ではそれほど高くないことが一般的です。
当座比率
当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債 × 100
当座比率は、企業の支払能力を評価する重要な指標です。当座資産は、流動資産のうち特に換金性の高い資産、具体的には現金・預金、市場性のある有価証券、そして売掛金などを指します。これらは短期間で容易に現金化できる資産です。流動比率と似ていますが、当座比率はより厳密に企業の短期的な支払能力を反映しているといえます。
一般的に、当座比率は100%以上であることが望ましいとされています。100%を下回る場合、特に急激な低下が見られる場合は注意が必要です。これは、近い将来に資金繰りが厳しくなる可能性を示唆しており、最悪の場合、支払不能に陥るリスクも考えられます。
固定比率
固定比率 = 固定資産 ÷ 自己資本 × 100
固定資産の調達源泉を確認する指標です。自己資本でどれだけ固定資産を賄えているかを表します。100%以下が望ましいとされますが、業種特性を考慮する必要があります。
製造業など固定資産の多い業種では高く、サービス業など固定資産の少ない業種では低くなる傾向があります。 比率が高いと、固定資産への投資が過大で、財務の硬直化を招く可能性があります。
インタレスト・カバレッジ・レシオ
インタレスト・カバレッジ・レシオ = (営業利益 + 受取利息 + 受取配当金) ÷ (支払利息 + 割引料)
インタレスト・カバレッジ・レシオは、企業の利息支払能力を評価する重要な指標です。事業から得られる利益(営業利益、受取利息、受取配当金の合計)が、金融費用(支払利息と割引料)の何倍かを示します。
この比率は1倍以上が必須で、3倍以上が望ましいとされます。1倍を下回ると、利息支払いのために資産売却や追加借入が必要となり、財務状況が急速に悪化するおそれがあります。適正水準は業種や企業の成長段階により異なるため、同業他社との比較や経年変化の観察も重要です。
安全性分析にあたっての注意点
業種・規模を考慮
安全性の基準は業種によって大きく異なります。例えば、製造業は設備投資が必要なため固定資産比率が高くなる傾向があります。一方、小売業は在庫や売掛金などの流動資産が多いため、流動比率がより注目されます。このように、業種ごとの事業特性によって、重視すべき財務指標が異なります。そのため、同業他社や業界平均との比較が不可欠です。ベンチマークには類似規模の企業を選ぶことも重要です。
経年変化の観察
単年度の数値だけでなく、複数年にわたる変化を観察することが重要です。急激な変化がある場合は、その要因を詳しく調査する必要があります。例えば、自己資本比率が急激に低下している場合、大規模な設備投資や買収などの特殊要因がないか確認します。
複数の指標から総合的に判断
単一の指標のみで企業の安全性を判断することは危険です。例えば、流動比率が高くても固定比率が悪化していれば、長期的な安全性に問題がある可能性があります。そのため、短期・長期の安全性指標をバランスよく分析し、さらに収益性や成長性の指標も考慮に入れる必要があります。また、財務諸表に現れない定性的要素(市場環境、経営戦略など)も含めて総合的に判断することが重要です。
正確な安全性分析には総合的な視点が必要
安全性分析は企業の財務健全性を評価する重要な手法です。今回紹介した5つの指標をはじめ複数の指標を用いることで、黒字倒産リスクや潜在的な財務問題を早期に発見できでしょう。ただし、業種や企業規模の違い、経年変化を考慮し、指標を総合的に判断することが重要です。