• 2025. 08. 06
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国際会計基準(IFRS)とは?
日本基準との違いや導入のメリット・デメリット

国際会計基準(IFRS)とは?日本基準との違いや導入のメリット・デメリット

グローバル企業の台頭により、国際的な資金調達の需要が急速に拡大しています。しかし、各国で異なる会計基準により、投資家が財務諸表を正確に比較することが困難な状況が生まれました。

この課題を解決するために誕生したのが、国際的に統一されたルールである国際会計基準、IFRS(イファース/アイエフアールエス)です。日本でも国際展開を行う企業を中心に導入が進んでいます。

本記事では、国際会計基準(IFRS)の概要や日本基準との違い、メリット・デメリット、導入ポイントまでを解説します。

目次

国際会計基準(IFRS)とは

国際会計基準(IFRS)の概要

国際会計基準(IFRS)は「International Financial Reporting Standards」の略称で、国際財務報告基準と訳されることもあります。1973年にヨーロッパで誕生し、国際会計基準審議会(IASB)が、世界共通となる会計基準を目指して発展させてきました。

IFRSの特徴のひとつは、企業がそれぞれの実態に合わせて判断しやすいよう、柔軟なルール設計になっている点です。国ごとの法制度や商習慣の違いを前提に、共通の枠組みを示しつつも、細かな規定にはあえて踏み込まず、一定の裁量を企業に委ねる仕組みになっています。

参考:IFRSとは | 日本公認会計士協会

国際会計基準(IFRS)の採用状況

2005年にEU域内の上場企業への適用が義務化されて以降、オーストラリアをはじめ多くの先進国でIFRSが導入されました。現在では140を超える国と地域でIFRSが使用されており、真のグローバルスタンダードとしての地位を確立しています。

日本では任意適用となっていますが、国際的な事業展開を行う企業を中心に導入が進んでいる状況です。上場企業のうち、IFRS適用済あるいは適用決定会社数は全体の約7.4%に及びます(2025年4月末現在)。

参考:IFRS適用済・適用決定会社一覧 | 日本取引所グループ

国際会計基準(IFRS)の日本会計基準への影響

日本の会計基準は、「企業会計原則」を基礎とし、企業会計基準委員会(ASBJ)が策定した日本独自の基準に基づいています。

企業会計原則については、「企業会計原則とは?経理担当者が押さえておきたい7つの一般原則を解説!」で詳しく解説しています。

近年では、国際会計基準(IFRS)の影響を受けた基準の導入も進んでおり、その一例が「収益認識に関する会計基準」です。

この新しい基準は、IFRSの収益認識モデルを参考に策定され、2021年4月以降に開始する事業年度から強制適用されています。これにより、日本の会計基準においても、IFRSと同等の収益認識が求められるようになりました。

適用対象は、公認会計士による会計監査を受ける上場企業や大企業に限らず、任意で会計監査を受けている企業
(たとえば上場準備中の企業)にも広がっています。

なお、IFRSは継続的に進化しており、2027年1月にはIFRS第18号「財務諸表における表示及び開示」が発効します。この新基準では損益計算書に営業・投資・財務の3区分が明確に定義され、企業間の比較可能性がさらに向上することが期待されています。

参考:IFRS第18号 「財務諸表における表示及び 開示|公認会計士協会

国際会計基準(IFRS)と日本会計基準との違い

グローバル基準であるIFRSは、日本会計基準と以下の点で違いがみられます。基本的な考え方の違いと、具体的な
会計処理の違いに分けて解説します。

基本的な考え方の違い

財務報告に関するルールの違い

IFRSは、基本的な会計原則のみを明確にし、細かい数値や判断の基準は設けない「原則主義(プリンシプル・ベース)」に基づいています。

世界中で使われることを前提に作成されているため、法制度や商習慣が異なっても対応できるよう、具体的な解釈や運用は現場判断に任せるという考え方が採用されています。表示方法にも細かい規定がない分、解釈の根拠を明示するために大量の注記が必要となります。

一方、日本の会計基準は、詳細で具体的な規定や数値基準が定められている「細則主義(ルール・ベース)」に基づいています。財務諸表に示すべき内容については、ひな型や数値基準など細かい決まりがあるため、注記は少なめです。

企業価値に対する考え方の違い

IFRSでは、「資産負債アプローチ」で利益を算出します。資産から負債を差し引いた純資産の増減額を利益(または損失)と考えます。ここで認識された利益は、「包括利益」と呼ばれます。

日本の会計基準は、収益から費用を差し引いた利益を重視する「収益・費用アプローチ」を採用しています。計上された純利益の結果、純資産が増加するという考え方です。また、当期利益だけでなく、含み損益も表わすことで、
為替変動や株式変動といった市場リスクも財務諸表に反映します。

連結財務諸表の捉え方の違い

IFRSは「経済的単一体説」の立場をとり、親会社と子会社を経済的に単一の存在と考えます。連結財務諸表は、親会社だけでなく子会社を含むすべての株主のためにも作成されるべきだと考えられています。

一方、日本の会計基準は、「親会社説」の立場に立ち、子会社を親会社が支配する存在として捉えます。連結財務諸表は、経営を支配している親会社の株主のために作成されるべきだと考えられています。

連結会計については、「連結会計とは?基礎知識から連結財務諸表の作成手順、注意点まで徹底解説」で詳しく解説しています。

具体的な会計処理の違い

基本的な考え方の違いは、実際の会計処理においても明確に現れます。以下の表は、企業の実務に直接影響する主要な処理の違いをまとめたものです。


  日本会計基準 国際会計基準(IFRS)
収益認識 実現主義:収益が確定した時点で認識 履行義務の充足に基づき収益認識
非上場株式の評価 原則として取得原価 公正価値(時価)で評価
M&A時に受け入れた
無形資産の評価
特許権や商標権など
法律上の権利のみ時価評価
顧客リストや契約など
無形資産も含め広く時価評価
のれんの処理 最大20年で定額償却 償却せず、減損テストによる評価
固定資産の耐用年数 法人税法に基づく耐用年数 実際の使用予定期間を基準に設定
研究開発費 すべて費用処理 研究費は費用、開発費は要件を満たせば
資産計上可

国際会計基準(IFRS)を導入する3つのメリット

IFRSを導入することで得られるメリットは、主に以下の3点です。

1. 海外子会社の管理が容易になる

IFRSを導入すると、異なる国にある子会社でも同じ基準で管理・比較できるようになります。業績比較を正確に把握できるため、子会社間の違いがより明確になり、効率的なグループ経営が実現します。

2. より正確に財務情報を把握できる

収益の認識や有給休暇の引当金、のれんの処理などにおいて、IFRSの方が日本基準より正確に実態を把握できると
いわれています。経営陣は、より精度の高い情報に基づいた経営分析と戦略的な意思決定を行うことができます。

経営分析については、「経営分析の5つの手法や見るべき指標、効率的に行うポイントまで解説!」で詳しく解説しています。

3. 資金調達や組織編成の幅が広がる

IFRSは世界標準であるため、財務諸表を海外の会計基準に書き換える必要がありません。世界の投資家や他企業から比較検討の対象となることで、海外からの資金調達や異国籍企業との組織再編の可能性が高まります。

また、海外市場での上場や債券発行なども、IFRSベースの財務諸表があれば円滑に進めることができます。

国際会計基準(IFRS)導入のデメリット

特にグローバル企業にとってはメリットの多いIFRSですが、デメリットも存在します。導入を検討する際には、以下も理解しておく必要があります。

導入に多大のコストや時間、労力を要する

IFRS導入に際しては、会計システムや業務プロセスの見直しが必要となり、場合によっては既存システムの大幅な改修や新システムへの移行が求められます。さらに、会計基準の変更に伴いシステムや運用方法も変わるため、担当者への教育・研修が必須となります。

また、IFRSは原則主義に基づいており、細かな判断は企業側に委ねられます。そのため、解釈や運用について十分に検討し、社内で共通認識を持つ必要があります。さらに、海外市場への上場を目指す場合には、英語表記の財務諸表が求められるため、これらに対応できる人材も育成・確保も課題となります。

事務負担が増加する

IFRSを導入すると、資産・負債の範囲が広がるうえに資産を時価で評価し直す必要が生じます。注記情報も増加するため、事務処理の負担が大幅に増えます。

さらに、日本企業の場合、会社法上では日本基準に基づいた財務諸表の開示が必要なケースもあるため、IFRSと日本基準による帳簿を並行して管理する必要があります。これに伴い、新しいルールやマニュアルの整備も必要となることから、事務負担の増加は避けられないでしょう。

国際会計基準(IFRS)導入をスムーズに進めるポイント

IFRSをスムーズに導入するためには、次の4つのポイントが重要になります。

ポイント1. 早めに着手する

実際にIFRSを導入した企業の多くは、数年にわたって準備を進めています。会計方針そのものが変わるということは、会社の経営管理にも影響を及ぼすということです。導入するタイミングを見極めて、早めに着手することが成功のカギとなります。

ポイント2. 専門部署を設置する

意思決定を行うための管理会計においては、従来のKPIでは経営管理が機能しなくなる可能性があります。KPIの変更により、既存システムの要件変更が必要となるでしょう。

実務では、過年度と適用後では収益認識基準が異なるため、純粋な対比ができなくなってしまいます。また、次年度の予算についても新基準で作成しなければなりません。導入初年度は、比較のために前期を含めた2期分の財務諸表の開示が求められます。

上記を考慮すると、IFRS導入前後には専門部署の設置が効果的です。

ポイント3. 従業員への周知・教育を徹底する

新収益認識基準は売上に関わる会計基準であるため、経理部門だけでなく営業部門をはじめとするフロントオフィスの従業員への教育も必要です。周知が不十分であれば、会計方針に相違が生まれ、業績を正確に把握できません。
全社的に知識を深め、新たな業務内容やルールなどの周知を徹底することが大切です。

ポイント4. 国際会計基準(IFRS)に適応したシステム・ツールを導入する

IFRSの導入準備は複雑で大規模であるため、取り組み全体をサポートできるシステム・ツールの活用が不可欠です。企業規模や業種に応じて、自社に適した会計システム・ツールの導入を検討しましょう。特に、複数帳簿の管理や
注記情報の増加に対応できるシステムの選定が重要です。
また、将来的な基準変更にも柔軟に対応できる拡張性を持ったツールを選択することが望ましいでしょう。

会計システムの選び方ついては、「【上場企業・大企業向け】会計ソフトの選び方 押さえておきたい機能や特長」で詳しく解説しています。

早めの準備で国際会計基準(IFRS)の導入を成功させよう!

国際会計基準(IFRS)は、グローバル展開を行う日本企業を中心に、ますます広がると見込まれます。財務報告に関するルールや企業価値に対する考え方、連結財務諸表の捉え方など、日本基準とは根本的な違いがあるため、正確な理解が不可欠です。

IFRSの導入・運用には高度な専門性が求められ、業務全体の見直しやシステム対応も避けては通れません。導入を成功させるには、信頼できるシステムやツールの活用が鍵を握ります。IFRSの導入検討や会計システムの見直しでお悩みの場合は、豊富な導入実績を持つICSパートナーズまでお気軽にご相談ください。