• 2025. 07. 30
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グループ通算制度とは?
連結納税との違いやメリット、実務対応までを解説

グループ通算制度とは?連結納税との違いやメリット、実務対応までを解説

2022年4月、従来の連結納税制度に代わりグループ通算制度が本格施行されました。この制度は企業グループの税務負担を軽減しつつ、実務の簡素化を実現する画期的な仕組みです。しかし、中小法人特例の適用制限など新たな注意点も存在します。本記事では、制度の基本的な仕組みから具体的なメリット・デメリット、会計処理の留意点まで、経理担当者が実務で押さえるべきポイントを体系的に解説します。

目次

グループ通算制度とは

グループ通算制度とは、100%資本関係にある企業グループにおいて、各法人が個別に法人税の申告・納税を行いながら、グループ全体での損益通算を可能にする税制です。2022年4月1日以降開始事業年度から適用されており、連結納税制度の課題解決を目的として導入されました。

この制度の大きな特徴のひとつに、従来の一体申告方式から個別申告方式への転換が挙げられます。各法人が自社の所得や税額を個別に計算・申告するため、連結納税制度で問題となっていた申告手続きの複雑さが大幅に解消されています。

参考:No.5900 グループ通算制度の概要|国税庁

グループ通算制度への移行の背景

連結納税制度では、親法人がグループ全体の申告を一括処理する必要があり、子会社での修正が発生するとグループ全体への影響が避けられませんでした。この仕組みは、親法人に過度な事務負担を強いるため、税制上のメリットがあっても導入を見送る企業も少なくありませんでした。

グループ通算制度は、こうした実務上の課題を解決し、損益通算による節税効果を維持しつつ運用負荷を軽減する制度として設計されています。これにより企業グループはより柔軟で効率的な税務管理が可能となります。

連結納税制度からの主な変更点

2つの制度の主な違いは、以下の通りです。


  連結納税制度 グループ通算制度
申告・納付方法 親法人がグループ全体をまとめて
申告・納付(一体申告方式)
各法人が個別に申告・納付
(個別申告方式)
修正申告・更正の影響 グループ全体に影響し、
親法人が対応
原則として、当該法人のみに影響
中小法人の判定 親法人の資本金で判定 グループ内に1社でも大法人があれば、
全社が大法人扱い
電子申告 書面申告も可能 全法人が電子申告必須

グループ通算制度の適用される法人の条件

グループ通算制度は100%資本関係にある企業グループが対象となりますが、すべての法人が適用できるわけではありません。国税庁が定める厳格な要件を満たし、国税庁長官の承認を受けた法人のみが制度を利用できます。

親法人の条件

グループ通算制度において親法人となれるのは、下記の除外条件にすべて該当しない普通法人または協同組合などに限られます。


1.清算中の法人

2.普通法人(外国法人を除きます。)又は協同組合等との間にその普通法人又は協同組合等による完全支配関係がある法人

3.通算承認の取りやめの承認を受けた法人でその承認日の属する事業年度終了後5年を経過する日の属する事業年度終了の日を経過していない法人

4.青色申告の承認の取消通知を受けた法人でその通知後5年を経過する日の属する事業年度終了の日を経過していない法人

5.青色申告の取りやめの届出書を提出した法人でその提出後1年を経過する日の属する事業年度終了の日を経過していない法人

6.投資法人、特定目的会社

7.その他一定の法人(普通法人以外の法人、破産手続開始の決定を受けた法人等)

引用:グループ通算制度の概要|国税庁(PDF)


これらの条件により、財務基盤が安定し、継続的な事業運営が見込める法人のみが、親法人として認められる仕組みとなっています。

子法人の条件

子法人は、親法人との間に完全支配関係がある他の内国法人のうち、上記の親法人除外条件の3~7に該当しない法人です。つまり、清算中でなく、他の法人による完全支配下にない法人であれば、基本的に子法人として制度適用が可能です。

完全支配関係とは、一方の法人が他方の法人の発行済株式等の100%を直接または間接に保有している関係を指します。この関係が制度適用の前提条件となります。

グループ通算制度がもたらす3つのメリット

グループ通算制度を利用することによって企業にもたらされるメリットは、主に以下の3つです。

1. グループ内の損益通算による節税効果

グループ通算制度では連結納税制度と同様に、グループ内の赤字法人と黒字法人の所得額を損益通算できます。例えば、親法人が利益を出している一方で子会社が赤字の場合、その損失を親法人の利益と相殺することで、グループ全体の課税所得を減らし節税につなげられます。

この損益通算効果は、事業の多角化や新規事業展開を行う企業グループにとって特に有効です。成熟事業の利益で新規事業の初期損失をカバーすることができます。

2. 税額控除額の限度額増加

研究開発税制や外国税額控除などの税額控除は、法人税額に対する一定割合を限度として適用されます。グループ通算制度では、控除余裕額と控除限度超過額をグループ内で調整できるため、控除枠を最大限活用できます。

例えば、親法人で研究開発税制の控除限度額に余裕がある場合、子会社の控除限度超過額を親法人で活用することで、グループ全体の税負担を効率的に軽減できます。

3. 親法人の事務負担軽減

連結納税制度では親法人がグループ全体の申告を一括処理し、修正・更正もグループ全体への対応が必要でした。グループ通算制度では、各法人が個別申告するため、親法人の事務負担は大幅に軽減されます。また、修正・更正は原則として該当法人のみで完結するため、迅速かつ効率的な対応が可能となります。

グループ通算制度のデメリット

魅力的なメリットをもたらすグループ通算制度ですが、いくつかのデメリットや注意すべき点もあります。制度適用の判断では、以下の点を十分に評価することが重要です。

中小法人特例の適用制限

グループ通算制度では中小法人の判定基準が厳格化されており、グループ内に大法人(資本金1億円超等)が1社でもあれば、グループ全体が中小法人特例を受けられません。これにより軽減税率の適用や貸倒引当金の損金算入など、従来享受していた税制優遇が適用外となる可能性があります。

親法人が中小企業でも子法人に大法人が含まれる場合、グループ全体の実質的税負担が増加するリスクがあるため、事前の試算が不可欠です。

電子申告の必須化による対応コスト

グループ内の全法人が電子申告必須となるため、書面申告を続けていた法人はシステム導入や操作スキルの習得が必要です。電子申告をせず書面申告をした場合、無申告加算税の賦課対象となるため、確実な対応体制の構築が求められます。

連帯納付責任のリスク

グループ通算制度では、グループ内で法人税が納付できない法人が発生した場合、その他の法人が代わって納付しなければなりません。滞納額に上限は設けられていないため、経営が不安定な法人を含むグループでは大きなリスクとなります。

こうしたリスクに備えるには、グループ全体としての内部統制の強化も重要です。

詳しくは「内部統制とは?4つの目的と6つの基本的要素、評価・報告の手順を解説」で解説しています。

繰越欠損金の活用制限

連結納税制度では、親法人の繰越欠損金をグループ内の子法人所得から控除できましたが、グループ通算制度では、親法人の繰越欠損金は親法人の所得からのみ控除可能です。大きな繰越欠損金を持つ親法人にとっては節税効果が減少します。

子法人の事務負担増加

各子法人が個別申告を行うため、従来親法人に依存していた申告実務を自社で対応する必要があります。申告経験の乏しい子法人では体制整備やスキル向上が課題となり、グループ全体での進捗管理も重要になります。

こうした課題への対応には、グループ統一の会計システムの導入、シェアードサービスの活用も有効な選択肢となります。詳しくは下記の記事で解説しています。

グループ通算制度を開始するための手続き

グループ通算制度を新規適用するには、国税庁長官の承認が必要です。一度承認を受けると原則として任意の取りやめができないため、慎重な検討と適切な手続きが重要になります。

申請から承認までの流れ

 1.申請書の提出
  親法人の所轄税務署に、グループ全法人の連名による「通算法人となる法人の承認申請書」を提出します。
  初回適用事業年度開始日の3か月前までに、提出する必要があります。

 2.国税庁長官による審査
  提出された申請書の内容をもとに、通算制度の適用要件を満たしているかどうかが審査されます。

 3.承認またはみなし承認の通知を受領
  審査の結果、要件を満たしていれば「承認」または「みなし承認」の通知が親法人に届き、
  制度の適用が正式に認められます。

連結納税制度からの自動移行

既に連結納税制度の承認を受けている法人は、2022年4月1日以後最初に開始する事業年度から、原則として自動的にグループ通算制度に移行します。別途手続きは不要ですが、制度変更に伴う実務対応の準備は必要です。

制度適用時の注意点

グループ通算制度は、一度開始すると「やむを得ない事情」がある場合を除き、任意の取りやめができません。将来的なグループ再編や事業戦略の変更も考慮した長期的な視点での判断が求められます。また、制度適用前には、グループ全体での税務シミュレーションを実施し、メリット・デメリットを定量的に評価することが重要です。

グループ通算制度の会計処理における留意点

グループ通算制度の導入により、会計処理面でも一部変更が必要となります。基本的な枠組みは連結納税制度から大きく変わりませんが、重要なポイントを押さえておきましょう。

税金の会計処理方法

グループ通算制度では、各法人が個別に申告・納税するという特性を反映し、通算税効果額(損益通算や税額控除の授受による税金の増減額)と実際の未納税額を区分して処理する必要があります。具体的には、通算税効果額を「法人税、住民税および事業税」に含め、それに係る債権債務は「未収入金」「未払金」として計上します。

税効果会計の取扱い

税効果会計については、企業会計基準委員会が公表した実務対応報告第42号「グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い」に準拠して処理します。基本的には連結納税制度の取扱いが踏襲されているため大幅な変更はありませんが、グループ内各社の繰延税金資産の回収可能性判断においては、通算グループ全体の将来の課税所得見込みを考慮する必要があります。

参考:グループ通算制度を適用する場合の会計処理及び開示に関する取扱い 実務対応報告第42号|財務会計基準機構(PDF)


グループ通算制度は税務面の制度ですが、グループの財務を考えるうえでは、会計面の「連結会計」についても理解しておくと全体像が把握しやすくなります。

連結会計については、「連結会計とは?基礎知識から連結財務諸表の作成手順、注意点まで徹底解説」で詳しく解説しています。

グループ通算制度を正しく理解し、効率的な経営を目指そう

グループ通算制度は、企業グループ内の各法人が個別に申告しながらも損益通算のメリットを享受できる制度として、2022年4月から連結納税制度に代わって導入されました。中小法人特例の適用制限や連帯納付責任など新たな注意点もあるため、適用を検討する際は自社グループの状況を踏まえ、メリット・デメリットを総合的に評価することが重要です。

グループ通算制度の実務対応には、グループ会計に対応したシステムや、各社の財務データを連携・集約できる環境の整備が欠かせません。ICSパートナーズでは、グループ会計に対応したシステムの導入支援やデータ連携環境の構築をご支援しています。お気軽にご相談ください。