• 2025. 05. 22
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今こそ実践! グループ企業の会計業務 ≪カイゼン≫ vol.5

第5回:グループで見直す予算編成

今回本コラムの執筆を担当させて頂く、ICSパートナーズの栗山と申します。

本連載では、会計システム専門ベンダーの視点から、制度対応、管理会計、DX化など企業グループ様の会計業務≪カイゼン≫を考えるヒントをお届けして参ります。

制度の概要はもちろん、実際に運用する際の注意点なども交えて、より実務に即した内容にしていきたいと思いますので、是非お読みいただければ幸いです。

さて、今回はグループで見直す予算編成をテーマとして、グループ企業様の予算編成業務にて発生する課題とそのカイゼン策について考えてみたいと思います。

目次

グループ企業での予算編成について

予算編成とは、予算を計画するプロセスです。企業が設定した目標とする売上や利益を達成するために、予算を編成する過程で各部署間、各担当者間、各部署と経営層の間で目標値等の調整を行います。 特に上場企業では、証券取引所の要請もあり、売上高、営業利益、経常利益、純利益などの業績予測を開示するケースがほとんどであり、予算編成は欠かせない業務になります。 また、当初予測値と比較して、新たに算出した予測値に差異が発生し、かつその数値が基準値を超えている場合は、修正報告を行う必要があるため、通期で見込み管理を行っていく必要があります。

更に、上場グループ企業では、「単体決算」とは別に「連結決算」を行い開示することが義務付けられおり、開示ルールに沿って連結財務諸表を作成します(この手続きを「制度連結」と呼びます)。 よって予算編成も基本「制度連結」のルールに沿って進めていくことになりますが、一方で予算は、企業の数値目標であり、グループ企業内の業績評価や業績向上のための意思決定を行うレポート作成にも活用されます(管理会計上の連結処理を行い内部活用のレポートを作成する手続きを「管理連結」と呼びます)。 そのため、各グループ会社の予算に対してどのように実績を対比してグループの「管理連結」を行うかも考えていかなくてはなりません。

このようにグループ企業での予算編成は、外部への開示情報、内部での意思決定の両面を考慮しながら運用ルールを決めていく必要があります。

予算編成業務で発生する課題について

課題1原因特定スピード化と現場活用レベルに落とし込んだ予算粒度の検討

グループ全社の予算収集として一番多いのは、各社が部門別の売上高や原価、経費などを科目単位で予算を収集し、全社の数値を予測していくケースです。 グループ内部取引が発生し、その取引額の影響が大きい場合は、グループ内部取引額も予算化したうえで、各社予算を合算後に内部取引予算を相殺することで、グループ予算を確定させていきます。

グループ予算確定後、事業年度が進行していくなかで、経過月においては月次実績データが集まります。当初予算から差異が発生した場合は、当初予算と実績の差異の原因特定を行う必要があります。 ここで考えていく必要があるのが予算の粒度についてです。

下図1をご参照ください。

例えば、グループ会社Aの業績がグループ全体へ影響を及ぼしたとします。仮に会社別の粒度で予算を収集していた場合は、売上高や原価、経費等の科目別の増減は把握できますが、それ以降の原因は分からず、別途グループ会社Aに報告を求めることとなります。もし、予算を事業別、部門別の粒度で収集していれば、各部門へ掘り下げて予算と実績の差異を確認し、一番影響度の高い箇所を素早く特定することが可能となります。

更に、現場部門まで目を向けてみると、予算や見込みを立てる際に勘定科目より細かい粒度で予算立案を行っているケースが多いです。 営業本部では、売上は案件別や製品別など、製造部門では、設備投資や生産計画などです。現場部門の視点から見た場合に、重要な管理対象については実際の活動レベルに近いで粒度で予算実績対比を行っていくことが理想です。

(図1)予算粒度

このように、原因特定をより素早く実施していくために、また重要な管理対象については現場部門の事業活動に即した管理を行うためにも、求める予算粒度への対応が課題となります。

課題2予算の収集・更新・共有等で発生するエクセル運用の限界

次に予算の収集手段に目を向けてみます。

多くの企業では、エクセルなどのスプレッドシートを用いて予算を収集、管理されています。スプレッドシートは入力フォームや出力フォームを自由に作ることができるメリットに対して、デメリットも生じます。

下図2をご参照ください。

エクセルなどのスプレッドシートでは、データ集計やメンテナンスに多大な労力がかかるだけではなく、予算作成及び承認プロセスがメールやフォルダ管理で非効率です。 また予算の提出し直しで、変更箇所の確認が大変などの課題が発生します。

さらに上記課題1で述べたように、予算の粒度が細かくなるにつれて、エクセル入力フォーム(シートやファイル数)が増え、データ収集にも膨大な時間がかかり、予算編成時の分析に十分な時間が取れないという事態が発生してしまいます。 また、複雑化/肥大化したエクセルの山が足かせになると、新しい要請にも即応できなくなり、属人化の発生要因にもなります。

(図2) 属人的なエクセル管理での運用が限界

このように、エクセルでの予算編成は、会社数や部門数などのマスタ増加や予算に関わる人員(関係者)の増加などにより、運用に限界をきたしてしまうことが課題となります。

課題3予算統制(予実分析)のリアルタイム性

最後に予算統制に関する課題です。

現場部門から収集した予算に対して、実績を対比できていない、又は実績対比に時間がかかっており各現場部門へのフィードバックが遅れるため、タイムリーな改善ができていないという内容です。

例えば、各部署の経費予算を、勘定科目の内訳として案件別に区分して利用用途や目的を申請し、経営会議などの承認を得て予算化を行っているが、実績は部門別科目単位でしか集計しておらず、案件別には予算と実績を対比をできていないというケースです。 せっかく各部署から収集した予算に対して実績がフィードバックできなくては、適切な確認や改善に結びつけていくことができません。また来期の予算編成の精度も上がりません。

また、実績はあるがデータが一か所に集まっていないため各部署へ実績のフィードバックが遅れるというケースです。

下図3をご参照ください。

製品別の売上予測や原価予測をエクセルで行っているが、予測に対する実績のフィードバックについても同じくエクセルを利用して、各社内システムからデータ集計を行い月次の報告書を作成しているため1~2週間の時間かかるというものです。市場や調達に影響を及ぼす外部環境の変化が激しくなる中で、データ集計を迅速に行えないと販売活動や購買活動に関する意思決定が遅れてしまいます。

(図3) データ集計/報告書作成に時間を要す

このように、様々なシステムを参照して実績を集めるのに時間を要しているため、予算統制(予実分析)をリアルタイムに行えないという課題が発生します。

上記3つの課題から、予算編成が予算を集めるだけのイベントになっており、現場活動に活かされていないかもしれない、
また、エクセルでの集計・更新・分析は、多大な工数が発生するだけでなく、リアルタイム性にかけるため素早い意思決定を行うことができていないかもしれない、という推測がされます。

もし、このような状況であれば、課題解決のためのカイゼン策を考えていく必要があるのではないでしょうか。

課題解決(カイゼン策)

カイゼン策として有効なのは予算システムの導入です。

エクセルによる予算取集や予実管理、又は会計システムに実装されている予算機能を用いての予算管理、予実分析にて素早い分析や意思決定を行うことも可能ですが、 企業規模の拡大や管理されたい予算粒度が細かくなるにつれて上記にて記載した3つの課題点は顕著に現れてきます。

よってここからは、予算システムを利用されているが課題点の解決が図れていない、又は予算システムを検討されるうえでの構築のポイントとしてのカイゼン策を記載します。

カイゼン策1散在している経営管理情報をデータベースで一元管理

最初に、散在している経営管理情報を一元管理できるデータベースの構築が必要となります。

下図4をご参照ください。

データベース構築においては、実績、予算、見込といったシナリオや会計年度、相対期間など予算編成で必ず必要になるパラメーターはもちろんですが、例えば、売上や原価は、製品別や顧客別に管理・集計したい、経費は、組織別・科目別に管理・集計したいなどのグループ企業固有の予算粒度の要求も満たす必要があります。 さらに、販売管理システムや会計システムなどの上流システムで管理しているデータを連携して実績データの収集をより素早く行えるようにする必要もあります。この際にデータベースの取込レイアウトに合わせて、上流システムからデータ出力できれば良いですが、機能面、費用面で難しい場合もありますので、データ変換ツールを用いるケースもあります。

ご参考:データ変換ツール(ICSデータコンバータ)
https://www.ics-p.net/open21/tabid/1296/Default.aspx

そして、データベースに収集された予算・見込・実績などの対比を、製品別や顧客別、組織別など固有の管理要求に応じてアウトプットできる機能が搭載されていれば、散在している経営情報を一元管理でき素早い情報開示を行うことができます。

(図4) 散在している経営管理情報をデータベースで一元管理

このようにデータベースを構築し一元管理できる仕組みは予算編成業務の効率化が図れるとともに予算統制(予実分析)のリアルタイム性も確保することが可能となります。

カイゼン策2事業活動を担う現場部署の力を予算管理に取り込む

次に、事業活動を担う現場部門にて勘定科目より細かい粒度の予算管理を実現するためには、従来通りの勘定科目単位より、詳細に予算・実績を管理できる以下データベース設計の条件満たす必要があります。

  1. ① 勘定科目より細かい粒度で予算の追加、変更、削除ができ、勘定科目等に集計が可能
  2. ② 勘定科目等の予算実績サマリ情報から、細かい粒度の明細情報にドリルダウン分析が可能
  3. ③ 予算の使途、実績の摘要など、文字情報を同一のデータベースに保持可能
  4. ④ 予算と実績を明細ベースで比較可能

下図5をご参照ください。

この例では、保守費用を案件別(用途別)に詳細レベルで管理し、科目別への集計を行うイメージとなります。 例えば、保守費用に差異が発生している場合に、差異の原因を確認するためにサマリ情報から明細にドリルダウンできることもポイントとなります。 さらに、案件番号(予算番号)の発番と、案件番号単位での実績データの確保の仕方も重要なポイントとなり、会計システムなど関連システム側でも、案件番号で管理できるようにするための最小限のシステム改修が必要になってくるかもしれません。

【案件番号(予算番号)の運用ポイント】

ポイント1案件番号の体系と運用
  • 各部署で案件番号の重複が生じないよう、ユニークな番号範囲の割り当てが必要
ポイント2実績データへの案件番号の紐づけ方
  • 実績計上時に案件番号を付与する
  • 会計システムなどに案件番号欄(マスタ)を設けて入力する、又は摘要欄などに案件番号を記入する運用ルールを設ける
(図5) 予算管理の高度化

このように管理粒度を統一し、詳細レベル管理(管理の高度化)をおこなうことで、予算編成が予算を集めるだけのイベントに終わるのではなく、予算と実績が現場の活動レベルで把握でき、現場部署の力(現場力)を向上さていくことに繋ります。

カイゼン策3グループ企業での管理連結を考慮する

最後に、課題点としては述べませんでしたが、グループ企業においては、管理連結の運用もデータベース構築時に押さえておく必要があるポイントとなります。 単体でのデータベース設計だけでなく、連結のデータベース設計を考慮しなければグループ全体の予算編成・予算実績管理を素早く行うことはできません。

下図6をご参照ください。

親会社や各社で立案・承認された予算・見込データや基幹・会計システムなどから連携されてくる実績データは、各社での報告資料作成や分析は勿論ですが、最終的には連結ベースの報告資料として活用されます。 その工程における運用ルールを整備していく必要があります。 例えば、グループ統一科目の集計方法を考えておく必要があります。 グループ各社の勘定科目コードが全て統一されていれば問題ありませんが、統一されていない場合においてもグループ共通科目と各社の勘定科目など複数の勘定科目体系を保持し紐づけることできれば、予算も実績もコード変換せずに管理連結用のレポートを出力していくことが可能です。 また、グループ内部取引、連結消去・修正データの入力や承認などの仕組みも必要ですし、グループ各社を横串に並べた管理帳表の出力やそこからのドリルダウン機能も考慮する必要があるのではないでしょうか。

(図6) グループ企業での管理連結

このようにグループ企業において管理連結の運用を考慮したデータベース設計が必要となります。

強い企業の指針となる予算編成の効率化をお手伝い

上記で課題解決のカイゼンツールとして、ICSパートナーズでは、「fusion_place」というソリューションを提案しております。 企業様それぞれの管理項目や管理要求に合わせて、予算編成の効率化、経営分析の強化、早期化をサポートいたします。

(図7) fusion_place 予算管理ソリューション

いかがでしたでしょうか。最後までお読みいただき本当にありがとうございます。今回のコラムが皆さまの会計業務の≪カイゼン≫にお役に立てることを願っております。