• 2024. 07. 17
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ICSコラムシリーズ:原価計算 vol.9 第9回 「原価差異」

「原価計算基準」では、「原価差異とは実際原価計算制度において、原価の一部を予定価格等をもって計算した場合における原価と実際発生額との間に生ずる差額、ならびに標準原価計算制度において、 標準原価と実際発生額との間に生ずる差額(これを「標準差異」となづけることがある。)をいう。」と記載されています。

今回は、最初に「原価計算基準」の原価差異のうち「標準原価と実際発生額との間に生ずる差額(これを「標準差異」となづけることがある。)」をご説明し、次にERPでの対応例をご紹介します。

1. 「原価計算基準」の標準差異について

標準原価と実際発生額との間に生ずる差額である標準差異には、材料受入価格差異、直接材料費差異、直接労務費差異、製造間接費差異があります。

材料受入価格差異とは、材料の受入価格を標準価格をもって計算することによって生ずる原価差異をいいます。

直接材料費差異とは、標準原価による直接材料費と直接材料費の実際発生額との差額をいい、これを材料種類別に価格差異と数量差異とに分析します。

直接労務費差異とは、標準原価による直接労務費と直接労務費の実際発生額との差額をいい、これを部門別又は作業種類別に賃率差異と作業時間差異とに分析します。

製造間接費差異とは、製造間接費の標準額と実際発生額との差額をいい、原則として一定期間における部門間接費差異として算定して、これを能率差異、操業度差異等に適当に分析します。

それぞれどのように計算するのかは、以下の図をご覧ください。

標準原価差異

標準原価差異の種類計算式
材料受入価格差異 (標準受入価格ー実際受入価格)×実際受入数量
直接材料費差異 価格差異 (標準消費価格ー実際消費価格)×実際消費数量
数量差異 (標準消費数量ー実際消費数量)×標準消費価格
直接労務費差異 賃率差異 (標準賃率ー実際賃率)×実際作業時間
作業時間差異 (標準作業時間ー実際作業時間) ×標準賃率
製造間接費差異 (製造間接費差異) (製造間接費の標準額ー製造間接費の実際発生額)
予算差異 実際作業時間における予算額ー実際発生額(※)
変動費能率差異 (標準作業時間ー実際作業時間)×変動費率(※)
固定費能率差異 (標準作業時間ー実際作業時間)×固定費率(※)
操業度差異 (実際作業時間度ー基準操業度)×固定費率(※)

(※)原価計算基準では、具体的な計算方法の記載はありません。

直接材料費差異の価格差異、数量差異については、以下の図をご覧ください。

直接材料費差異

直接材料費差異

直接労務費差異の賃率差異と作業時間差異については、以下の図をご覧ください。

直接労務費差異

直接労務費差異

製造間接費差異の予算差異、能率差異、操業度差異については、以下の図をご覧ください。

製造間接費差異

製造間接費差異

続いて標準原価計算制度における原価差異の会計処理について説明します。

数量差異、作業時間差異、能率差異等であって異常な状態に基づくと認められるものは、これを非原価項目として処理します。

上記以外の場合は、実際原価計算制度に基づく処理によります。具体的には、以下の内容です。

  • 材料受入差異を除き原則として当年度の売上原価に賦課します。
  • 材料受入価格差異は、当年度の材料の払出高と期末在高に配賦し、材料の期末在高については、材料の適当な種類群別に配賦します。
  • 予定価格等が不適当なため、比較的多額の原価差異が生ずる場合、直接材料費、直接労務費、直接経費および製造間接費に関する原価差異の処理は、次の方法によります。
    (個別原価計算の場合) 次の方法のいずれかによります。
    ・当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に指図書別に配賦します。
    ・当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に科目別に配賦します。
    (総合原価計算の場合)
    ・当年度の売上原価と期末におけるたな卸資産に科目別に配賦します。

2. ERPでの対応例

材料受入価格差異について。

材料受入価格差異に関するERPの機能については、材料の品目マスタに登録されている標準単価と購入した材料の実際単価との差異を購入数量に掛けて計算し材料受入価格差異の仕訳を作成するという機能を有しているものがあります。 ただし、決算処理として材料の受入価格差異を当年度の材料の払出高と期末在高に配賦する機能がないシステムがあります。

直接材料費差異のうち価格差異について。

材料の品目マスタに標準単価を登録して評価方法として標準原価法を選択します。材料の消費単価は、標準単価になりますので、価格差異は、発生しません。この場合の価格差異は、材料受入価格差異のみが発生します。

直接材料費差異のうち数量差異について。

製造指図書に登録された実際消費量とBOMマスタの標準消費量をもとに計算した標準消費量との差異に材料の品目マスタの標準単価を掛けたものが数量差異になります。

直接労務費差異のうち賃率差異について。

実際賃率は、実際労務費÷実際作業時間で計算します。

作業区マスタに登録されている標準賃率と月次締め処理後に計算された実際賃率との差異に生産管理システムの製造指図書に登録された実際作業時間を掛けたものが賃率差異になります。 なお、ここで月次締め処理後に計算された実際賃率は、以下の①÷②で算定します。

部門別計算で計算された製造部門の労務費(①)を使用します。①は、第8回の部門別計算で計算される金額です。 一方、実際作業時間は、製造指図書に登録された実際作業時間の部門別に集計されたもの(②)です。 なお、ここで説明した賃率差異の計算の機能を有していないERPはあります。

直接労務費差異のうち作業時間差異について。

作業区マスタに設定されている標準賃率に作業手順(工順)マスタに登録されている標準作業時間と製造指図書に登録された実際作業時間との差異を掛けたものになります。 なお、ここで説明した作業時間差異の計算の機能を有していないERPはあります。

製造間接費差異について。

製造間接費差異を先ほど記載した製造間接費差異の図のように計算するERPの導入経験がありません。
私が経験した例としては、以下になります。

作業区マスタに設定した標準製造間接費配賦率×製造指図書に登録された計画作業時間=製造間接費①

実際製造間接費配賦率×製造指図書に登録された実際作業時間=製造間接費②

上記の①と②の差異を計算し差異仕訳を計上する機能を持っているERPです。

別のケースでは、製造間接費差異も直接労務費差異と同様の機能で計算しているケースです。

最後に

原価計算について会計の概要説明とそれに対応する形でERPでの対応例をご紹介しました。会計処理とERPとの関係を少しでもご理解、ご興味をもっていただけましたら幸いです。 お読みいただきました方々に感謝致します。

筆者プロフィール
吉田 圭一
大手監査法人の2法人で監査・上場準備・アドバイザリーサービス、会計パッケージソフトウェア企業で法人税申告書等のソフトウェアの企画・設計等、外資系ERP企業でERPの導入、 外資系IT企業でコンサルティングサービス、情報通信会社でERP導入とコンサルティングサービスに従事し、現在に至る。公認会計士、システム監査技術者。