• 2024. 05. 22
  • 原価管理

ICSコラムシリーズ:原価計算 vol.1 第1回 「原価計算の目的」

本コラムの執筆を担当させて頂く、ICSパートナーズの吉田と申します。 今回より「原価計算」に関するコラムの連載が始まります。このコラムでは、原価計算の会計に関する内容とシステムに関する内容を織り交ぜながらご紹介する予定です。

原価計算の会計の側面とシステムの側面、システムを使っての原価計算をする仕組みの概要をご紹介したいと思っています。 原価計算の会計の側面をご存知の方は多いと思いますし、一方、原価計算システムのことをご存知の方も一定数おられると推測します。 しかし、両方をご存知の方は意外と多くないのではと原価計算システムを導入する時に思うことがあります。

原価計算の会計の側面をご存知の多くの方々には、システムから見た原価計算を少し覗いていただきご興味を持っていただけますと幸いです。 一方、原価計算システムに精通されている方々には、会計の側面を見ていただければと存じます。

なお、本コラムでご説明する原価計算システムの想定は、私が導入経験のある海外製ERPの2種類の製品をもとにしておりますが、その2種類の製品の機能を忠実に説明した内容ではないことをお断りさせていただきます。

それでは、今回は、原価計算の目的と実際原価と標準原価に関する会計の内容をご紹介いたします。 なお、記載内容は私見です。

1. 原価計算の目的

製造業の経理部門の方が決算業務の一環として行う原価計算は、例えば、製品単位当たりの原価を計算することですが、 製造業以外の業種、たとえば、サービス業の場合、サービスの単位当たりの原価を計算することがありますので、製造業以外でも原価計算が使われています。

本コラムでは、製造業を想定した内容ですが、製造業以外の業種の皆様にもご参考にしていただければ幸いです。

原価計算については、「原価計算基準」(昭和37年11月8日 企業会計審議会)がありますので、「原価計算基準」が原価計算の目的をどのように記載しているかを見てみましょう。(枠内は「原価計算基準」からの引用)

原価計算には、各種の異なる目的が与えられるが、主たる目的は、次のとおりである。
(一) 企業の出資者、債権者、経営者等のために、過去の一定期間における損益ならびに期末における財政状態を財務諸表に表示するために必要な真実の原価を集計すること。
(二) 価格計算に必要な原価資料を提供すること。
(三) 経営管理者の各階層に対して、原価管理に必要な原価を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較して、その差異の原因を分析し、 これに関する資料を経営管理者に報告し、原価能率を増進する措置を講ずることをいう。
(四) 予算の編成ならびに予算統制のために必要な原価資料を提供すること。 ここに予算とは、予算期間における企業の各業務分野の具体的な計画を貨幣的に表示し、これを総合編成したものをいい、予算期間における企業の利益目標を指示し、 各業務分野の諸活動を調整し、企業全般にわたる総合的管理の要具となるものである。 予算は、業務執行に関する総合的な期間計画であるが、予算編成の過程は、たとえば製品組合せの決定、部品を自製するか外注するかの決定等個々の選択的事項に関する意思決定を含むことは、いうまでもない。
(五) 経営の基本計画を設定するに当たり、これに必要な原価情報を提供すること。 ここに基本計画とは、経済の動態的変化に適応して、経営の給付目的たる製品、経営立地、生産設備等経営構造に関する基本的事項について、経営意思を決定し、 経営構造を合理的に組成することをいい、随時的に行われる決定である。

原価計算の目的の (一)は、財務諸表作成のためです。原価計算をすることで棚卸金額が確定します。 (二)は、販売価格を決めるためです。原価計算をすることで製品等の原価が算定でき、それに基づき販売価格を決定、あるいは、販売価格決定の重要な要素として利用します。 (三)は、原価管理目的であり、標準原価を設定し、実際原価と標準原価の差異原因を分析し必要な措置を行います。 (四)は、予算を作成し予算統制のために原価計算を行います。 (五)は、経営の意思決定のために必要な原価情報を提供することです。

このように目的は多岐にわたり、利用局面も多くあります。原価計算はこれらの一定の目的を達成するための手段ですので、どの切り口で費用を集計するかによって適した原価計算方法は変わってきます。 唯一の計算方法があるわけではないのです。要するに、何の目的でその金額を集計するのかをよく検討し、計算結果の利用使途を明確にしたうえで最も適した計算方法を選択することになります。

2. 実際原価と標準原価

原価を計算する場合の原価には、実際原価と標準原価があります。これ以外の分類方法もありますが、ここでは割愛させていただきます。 最初に実際原価について「原価計算基準」の記載をもとにすると以下の内容になります。

実際原価=実際消費量×実際の取得価格
又は
実際原価=実際消費量×予定価格等

予定価格は、「将来の一定期間における実際の取得価格を予想することによって定めた価格をいう」と「原価計算基準」にはあります。

ただし、実際消費量と言っても「原価計算基準」では、「経営の正常な状態を前提とするものであり、したがって、異常な状態を原因とする異常な消費量は、 実際原価の計算においてもこれを実際消費量と解さないものとする。」とあります。

一方、標準原価について「原価計算基準」の記載をもとにすると以下の内容になります。

標準原価=科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定した財貨の消費量×予定価格(又は正常価格)

「この場合、能率の尺度としての標準とは、その標準が適用される期間において達成されるべき原価の目標を意味する。」と「原価計算基準」にはあります。

また、「原価計算基準」では「標準原価として、実務上予定原価が意味される場合がある。予定原価とは、将来における財貨の予定消費量と予定価格とをもって計算した原価をいう。 予定原価は、予算の編成に適するのみでなく、原価管理およびたな卸資産価額の算定のためにも用いられる。」とあります。

標準原価は、達成されるべき原価の目標とのことですが、実務上、単価情報は、予算の単価、数量情報は、前年度のデータを見直したもの、設計情報をもとにしたデータを使用というケースがあると思います。

3. 本コラムの内容紹介

本コラムでは、主として以下の内容をご紹介する予定です。

標準原価計算の内容とERPでの標準原価の積上計算の仕組みをご紹介します。

標準原価の積上計算では、積上計算に必要な主要マスタの内容とそれに基づいた積上計算機能概要をご紹介します。

原価計算システムと生産管理システムの関係と生産管理システムのMRPの機能概要をご紹介します。

個別原価計算の内容のご紹介をします。

個別原価計算システムのご紹介として製造指図書を使用した原価計算機能の概要をご説明します。製品を製造する場合、製造現場に製造指示をする必要がありますが、ERPでも製品を製造する場合、製造指図書を発行します。 この製造指図書に材料費、労務費、経費、製造間接費を計上することで製造原価を計算する仕組みをご紹介します。

原価の部門別計算とERPの部門別計算である製造間接費の配賦計算の仕組みをご紹介します。 なお、一部の内容については変更になる可能性がありますのでご了承ください。

連載回 テーマ(予定) 内容(予定)
第1回 原価計算とは
  • このコラムの内容
  • 原価計算の目的
  • 実際原価と標準原価
第2回 ERPの標準原価の積上計算①
  • 主要マスタの概要
第3回 ERPの標準原価の積上計算②
  • 積上計算の概要と計算例
第4回 ERPの標準原価の積上計算③
  • 生産管理システムと原価計算システムとの関係
  • 所要量計算の概要
  • 所要量計算の用語
第5回 個別原価計算
  • 特徴
  • 向いている業種
  • 計算の流れ
第6回 ERPの個別原価計算①
  • 全体像
  • 個別原価計算の概要①
第7回 ERPの個別原価計算②
  • 個別原価計算の概要②
第8回 原価の部門別計算とERPの対応例
  • 原価の部門別計算の計算手順
  • システムの対応例
第9回 原価差異
  • 原価計算基準での原価差異
  • システムでの原価差異計算例

次回の紹介

次回はERPで標準原価の積上計算の仕組みをご紹介するための前準備として、積上計算に使用する主要なマスタをご紹介します。これらのマスタは、原価計算だけでなく、生産管理でも使用されるマスタです。

筆者プロフィール
吉田 圭一
大手監査法人の2法人で監査・上場準備・アドバイザリーサービス、会計パッケージソフトウェア企業で法人税申告書等のソフトウェアの企画・設計等、外資系ERP企業でERPの導入、 外資系IT企業でコンサルティングサービス、情報通信会社でERP導入とコンサルティングサービスに従事し、現在に至る。公認会計士、システム監査技術者。