• 2024. 07. 03
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ICSコラムシリーズ:原価計算 vol.7 第7回 「ERPの個別原価計算②」

ERPの個別原価計算の2回目です。
ERPの個別原価計算の1回目は、製造指図書を使用した個別原価計算の内容でした。 この仕組みは、製造指図書を作成し、その製造指図書に材料費等の製造費用を計上し、製造が完了すると製造原価が確定し製品等の計上仕訳が作成されるというものでした。

今回は、プロジェクト原価管理システムです。このシステムは、前回の製造指図書に代わりにプロジェクトという箱に製造費用を計上して管理する仕組みです。 製造費用を計上する先が製造指図書に代わりプロジェクトになったということだけでなく、追加の機能があります。逆に製造指図書を使った仕組みでできたことでこのプロジェクト原価管理システムではできないことがあります。 それでは、プロジェクト原価管理の内容をご紹介します。

1. プロジェクト原価管理について

最初にプロジェクト原価管理の概要を以下の図で記載します。

プロジェクト原価管理の概要

プロジェクト原価管理の概要

続いて、上図の内容について説明をします。

プロジェクト原価管理 受注登録

工作機械、航空機、船舶、建設工事、ITプロジェクト等を受注した場合、プロジェクト原価管理で受注登録します。この時、売上と原価の計画を登録します。 原価の登録は、材料の明細、労務費の明細、外注加工費の明細、経費の明細を登録します。どの程度の粒度で登録するのかは、ケースバイケースです。

プロジェクト原価管理で受注登録するとプロジェクトコードが採番され、プロジェクト原価元帳が作成されます。

受注登録時に収益認識基準として完成時に1時点で収益を認識するのか、あるいは、履行義務の充足に係る進捗度に基づき収益を認識するのか等収益認識基準のうちどの基準を採用するのかを選択します。

購買在庫管理 実績計上

購買在庫管理で材料費と外注加工費について仕入先、外注先に対してプロジェクトコードを指定して発注の登録をします。 仕入先から材料費が入荷された場合、検収処理をして仕入計上します。外注先から外注加工品が入荷された場合、検収処理をして外注加工費を計上します。

検収データには、発注時に指定したプロジェクトコードがあります。それによりプロジェクト原価元帳に原価が計上されます。

プロジェクト原価管理 実績計上

社内で加工した場合、社内工数と社内単価から加工費が計算されプロジェクト原価元帳に加工費が計上されます。 ここでの社内工数は、実績工数をプロジェクト原価管理に登録します。社内単価は、あらかじめ設定している予定単価を使用します。

プロジェクト原価管理 仕掛計算

例えば、工作機械がまだ、完成していない場合で期末を迎えた場合、仕掛計算を実行します。仕掛計算を実行しますとこれまで計上していた費用が仕掛品に振替処理されます。

なお、履行義務の充足に係る進捗度に基づき収益を認識する基準を受注登録時に選択している場合は、進捗度に基づき売上が計上されます。

プロジェクト原価管理 売上計上・完了処理

工作機械等の生産が完了しお客様の検収が完了するなどにより売上が計上出来ますと請求処理・売上計上処理をします。また、完了処理をします。

以上がプロジェクト原価管理の処理の概要です。

2. プロジェクト原価管理の制約 製造指図書の個別原価計算との比較

今回の冒頭でプロジェクト原価管理には、製造指図書を用いた個別原価計算には、無い機能があるということ、逆に、製造指図書を用いた個別原価計算では対応可能であるが、 プロジェクト原価管理では対応できないことがある旨、ご紹介しました。

ここでは、その概要を記載します。
製造指図書を用いた個別原価計算を使用して製品を作成した場合、たとえば、Aという製品を10個製造したとします。A製品10個は、在庫管理システムで在庫計上されます。

一方、プロジェクト原価管理でBという製品を1個製造したとします。しかし、B製品1個を在庫管理システムで在庫計上する仕組みがありません。その理由は、以下になります。

プロジェクト原価管理で管理するものは、大型の工作機械、航空機、船舶、建物、工事、ITプロジェクト等です。 これらのものは、1品ごと完全個別受注生産のものであり完成するとお客様に検収をしてもらい、検収で合格すれば売上計上することを想定しているものです。 そのため製造等する期間も長いものがあり収益認識基準の選択肢として進捗度に基づき売上計上する機能があります。

実際のシステム導入プロジェクトでは、個別原価計算をすると言ってもどちらの個別原価計算の仕組みを採用するのかは、上記の観点も考慮して検討することが必要です。

次回の紹介

次回は、原価の部門別計算とERPの対応例についてご紹介します。

筆者プロフィール
吉田 圭一
大手監査法人の2法人で監査・上場準備・アドバイザリーサービス、会計パッケージソフトウェア企業で法人税申告書等のソフトウェアの企画・設計等、外資系ERP企業でERPの導入、 外資系IT企業でコンサルティングサービス、情報通信会社でERP導入とコンサルティングサービスに従事し、現在に至る。公認会計士、システム監査技術者。