• 2025. 05. 14
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ICSコラムシリーズ:管理会計 vol.10 第10回 「業績管理会計」

目次

部門別会計

財務会計では、会社単位(あるいは連結財務諸表作成の単位)で財政状態と経営成績を管理します。


管理会計では、会社単位より細かい粒度で(財政状態と)経営成績を管理します。


会社より細かい粒度である部門単位で業績を管理することは、部門別業績管理と呼ばれています。


予算を部門別に展開し各部門単位に月次等で予算と実績を比較し、予算達成度による評価、差異の原因調査、対策実施、各種指標を用いての評価等を行います。

部門別の実績費用集計

部門別に費用を集計する場合

その部門で発生したことが直接的に認識される費用は、その部門に計上します。


その部門で発生したことが直接的に認識されない費用(共通費)は、一旦、仮の部門、例えば、ダミーで設定した部署、あるいは、総務部等の管理部門で計上します。

費用を配賦する理由は、各部門で負担する費用(責任をもつべき費用)を明確にするためです。これらの費用を配賦しない場合、部門の利益が多く計上されるため費用の抑制、売上獲得のインセンティブが働かないリスクがあります。

仮の部門で計上した費用は、適切な配賦基準で各部門に配賦します。

各部門に配賦する場合、当初の計上時の勘定科目で計上する場合と配賦用の勘定科目を用いて配賦するケースがあります。
 後者の場合、当初の計上時の勘定科目での発生額を認識しやすいという利点があります。


共通費の配賦基準としては、例えば、以下のものがあります。なお、この基準は、本社費用の配賦基準としても使用されます。

 ・使用資本

 ・売上高基準
  予算売上高を用いる場合と実績の売上高を用いる場合があります。実績の売上高を用いると努力するほど費用負担が大きくなるという
  デメリットもあり、予算売上高を用いる方がよいという考えもあります。

 ・従業員数あるいは人件費

製造業での製造費用の部門別計算

製造部門/補助部門、部門個別費/部門共通費の部門別計算



製造業での実績費用の部門別計算を前掲の図をもとに説明します。

・製造共通費が製造部門の部門共通費、それ以外の製造1課、製造2課、工場総務部、品質管理部が部門個別費です。

・製造1課、製造2課、工場総務部、品質管理部に直接的に認識できる費用(原価要素)を計上します。

・次に製造部門の部門共通費を配賦基準(人数比等)を用いて製造1課と製造2課に配賦します。

・最後に製造部門に集計された費用(原価要素)は、必要に応じさらにこれをその部門における小工程又は作業単位に集計します。
 図では、製造1課の費用をさらに作業区1、作業区2に、製造2課の費用を作業区3と作業区4に配賦します。

社内家賃について

複数の拠点を有している企業の場合、各拠点の家賃とその付随費用を実際の発生額ではなく管理会計上のルールに基づいて各拠点を有する各部門に配賦する社内家賃制度を採用する場合があります。


管理会計上のルールとは、例えば、以下の内容です。

・財務会計上の各拠点の家賃とその付随費用の実際発生額を集計します。

・各拠点の施設の場所、建物のランク等に基づいて社内家賃を設定し実際発生額を配賦します。

・家賃の付随費用とは、固定資産税、修繕関連費用等です。

社内家賃制度のメリットには、例えば、以下のものがあります。

財務会計上の費用で管理会計の業績評価を行うことのデメリットの解消。

・財務会計上の費用で業績評価を行うと賃料の安い拠点を選択する誘因が働きます。
そのため、その企業のブランドイメージ、従業員の利便性、顧客との商談等でマイナスの影響が生じる可能性があります。

・あるいは、各部門の部門責任者は、その拠点を選択することができない。
人事異動でたまたまその拠点に配属されることになり、高い賃料の負担をもとに業績評価を行われることへの抵抗感を感じます。

社内金利について

事業部制、社内カンパニー制等の組織構造をとる場合、社内金利を各事業部や各カンパニーに賦課することがあります。これにより社内金利に相当する利益の獲得を求めています。

・事業を行う上で使用している資本に対して金利を課す。

・各事業部や各カンパニーはこの金利を計上して各事業部、各カンパニーの損益を計算します。

・この損益で業績評価を行います。

・社内金利を課す資本は、主として運転資本、社内借入金、社内資本金があります。

日本大学川野克典教授の「日本企業の管理会計・原価計算 2020 年度調査」によると社内金利制度の採用率は、以下の表の内容です。採用率の低下の要因として川野教授によると「いわゆる「マイナス金利政策」が導入された。これらの政策により,相対的に金利を課す意義が低下しており,その結果が社内金利の採用率の低下をもたらしていると考えられる」とのことです。

  1993~1994年度 2001~2002年度 2011~2012年度 2020年度
製造業 67.4% 47.5% 34.8% 30.9%
非製造業 対象外 対象外 対象外 25.3%
全体 対象外 対象外 対象外 27.8%
回答企業数 138社 99社 115社 151社

内部振替価格

事業部制等の組織構造の場合、各事業部間で取引を行う場合、内部振替価格を用いて取引を行う場合があります。


この場合に使用する価格としては、主として市場基準、原価基準があります。


市場基準は、取引する対象が市場で取引されているものである場合、市場価格を参考にして価格設定します。


原価基準は、取引する対象が市場で取引されていないものである場合、原価を参考にして価格設定します。この場合、原価そのものを基準にする場合と原価に利益を加算する場合があります。


なお、財務会計上は、原価に利益を加算する場合、期末に利益を加算している棚卸資産の評価金額は、この利益を控除する必要があります。

部門別実績管理

部門別の実績値は、たとえば、以下の方法で利用されます。

予算との比較

予算と実績との差異を分析し、必要な是正措置の実施、四半期等での業績評価、施策の見直し、次年度の予算への参考資料等に活用します。

前年度の実績との比較

前年度実績との比較から成長性等の観点で必要な是正措置等を実施します。

月次推移の分析

年度末までの見込みに使用したり異常な推移等があればその原因の調査と必要な施策を実施します。

業績管理会計

職能別組織

職能別組織とは、人事部、経理部、総務部、営業部等の機能、職能、業務内容により部門を分けた組織のことです。

職能別組織の業績管理は、部門ごとに収益と費用を計上し、その結果をもとに業績管理を行います。

対外的に収益を計上する部署は、営業部です。営業部以外は、コストセンターとして費用のみを計上し予算との対比等で部門業績を管理します。

営業部以外の費用を共通費として営業部に配賦することもあります。

また、例えば、製造業の場合、製造部門から営業部門に対して内部振替価格で社内売上、社内仕入を計上することもあります。


職能別組織の部門別損益計算書の例①です。
営業部は、営業利益で評価されます。それ以外の部門は、予算比で評価されます。

  営業部 人事部 製造部 総務部 経理部 合計
売上高 10,000 0 0 0 0 10,000
売上原価(※) 4,000 0 -4,000 0 0 0
製造費用 0 0 4,000 0 0 4,000
売上総利益 6,000 0 0 0 0 6,000
販売費及び一般管理費 1,000 500 0 400 600 2,500
営業利益 5,000 -500 0 -400 -600 3,500

※期首期末棚卸資産は、0と仮定

職能別組織の部門別損益計算書の例②です。内部売上、内部仕入があるケース。
営業部と製造部は、営業利益で評価されます。それ以外の部門は、予算比で評価されます。

  営業部 人事部 製造部 総務部 経理部 合計
売上高 10,000 0 0 0 0 10,000
内部売上 0 0 6,000 0 0 6,000
売上原価(※) 0 0 4,000 0 0 4,000
内部売上原価 6,000 0 2,000 0 0 6,000
売上総利益 4,000 0 2,000 0 0 6,000
販売費及び一般管理費 1,000 500 0 400 600 2,500
営業利益 3,000 -500 2,000 -400 -600 3,500

※期首期末棚卸資産は、0と仮定

職能別組織の部門別損益計算書の例③です。コストセンターの費用を営業部に配賦。
営業部の業績は、営業利益で評価されます。一方、それ以外の部門は、予算比で評価されます。

  営業部 人事部 製造部 総務部 経理部 合計
売上高 10,000 0 0 0 0 10,000
売上原価(※) 4,000 0 -4,000 0 0 0
製造費用 0 0 4,000 0 0 4,000
売上総利益 6,000 0 0 0 0 6,000
販売費及び一般管理費 1,000 500 0 400 600 2,500
共通費 1,500 -500 0 -400 -600 0
営業利益 3,500 0 0 0 0 3,500

※期首期末棚卸資産は、0と仮定

事業部制組織

事業部制組織とは、企業あるいは企業グループを事業ごとに管理する単位を分割し各事業部が利益責任を持つ組織のことです。

事業部制組織には、製品別事業部制、地域別事業部制、顧客別事業部制があります。

事業部制組織のメリットは、意思決定の迅速化、責任の所在の明確化、経営人材育成の促進等があります。

事業部制の業績管理は、各事業部の損益で管理します。各事業部で損益を計算する場合、本社費用を各事業部に配賦します。
また、各事業部間は、内部振替価格を用いて取引を行います。


事業部制組織の損益計算書例です。

本社費は、この例では、実績の売上高で各事業部に配賦します。
 ・本社費は、実績ではなく、予算の売上高で配賦すべきという考え方もあります。

事業部業績は、事業部利益で評価します。
 ・事業部業績の評価は、事業部で管理不能な費用を含めないという考え方もあります。

  A事業部 B事業部 C事業部 本社 合計
売上高 8,000 6,000 10,000 0 24,000
変動費 4,000 3,000 6,000 0 13,000
限界利益 4,000 3,000 4,000 0 11,000
固定費 1,000 1,000 1,200 2,400 5,600
本社費 800 600 1,000 -2,400 0
事業部利益 2,200 1,400 1,800 0 5,400


筆者プロフィール
吉田 圭一
大手監査法人の2法人で監査・上場準備・アドバイザリーサービス、会計パッケージソフトウェア企業で法人税申告書等のソフトウェアの企画・設計等、外資系ERP企業でERPの導入、 外資系IT企業でコンサルティングサービス、情報通信会社でERP導入とコンサルティングサービスに従事し、現在に至る。公認会計士、システム監査技術者。