業務効率化や人材不足など、ビジネスの現場には課題があふれている。その解決方法の一つとして、「RPA(Robotic Process Automation)」を導入する動きが広がってきた。しかし、実際の業務にどのように取り入れることができるのか、まだ模索している企業も多いのではないだろうか。

そんな中、「会計」の業務にRPAを取り入れる提案を始めたのが、戦略情報会計システム「OPEN21 SIAS」を展開するICSパートナーズだ。同社は、経理・会計部門における定型業務を自動化するツールを開発し、OPEN21 SIASのオプション機能に加えた。会計業務に“特化”したRPAとして、現場目線でニーズに対応する。

同社は2018年、「会計(アカウンティング)」と「技術(テクノロジー)」を組み合わせた、技術開発の新コンセプト「Accountech(アカウンテック)」を掲げ、その第1弾として、人工知能(AI)による書類読解の新機能を開発した。

今回開発した「AccountechRPA」は、その第2弾となる。このRPAによって会計業務はどう変わるのだろうか。同社の峯瀧健司社長に、RPAが会計業務で果たす役割と「本当に役立つ会計システム」に対する思いについて聞いた。

RPAが会計業務に役立つ理由

峯瀧健司社長
ICSパートナーズの峯瀧健司社長

――「Accountech」第1弾は、AIによる書類読解の機能でした。反響はどうでしたか。

AIに対する関心の高さを実感しました。会計システムの分野では、このような技術を使った機能があまり実用化されていません。バックオフィス業務はどうしても後回しになるからです。

しかし、大手企業を中心に、事務処理に最新技術を取り入れることに対する関心も高まってきました。ある大手企業とは現在、共同研究を進めています。その企業はグループ会社が多く、事務処理の業務も煩雑であることから、業務効率化に投資しているようです。

―― 今回開発したRPAは、経理・会計の分野でどのような業務を担うことができるのですか。

RPAは、「一定のルールに基づいた作業」を自動でやってくれるロボットです。このことは、AIとの違いを考えると分かりやすいでしょう。

AIは、学習したデータから傾向を分析し、推測値を出してくれます。AIがよく使われる画像認識のシステムでは、画像の特徴を学習データと比較して、「90%の確率で○○の画像である」などと答えを出します。100%断言することはありません。一方、RPAは従来のITと同じです。決められたルール通りに動いて答えを出す、というのが基本です。そのかわり、判断を伴う業務はできません。

人が手作業でやっている業務を分析すると、思った以上に判断を伴う作業が多いことが分かります。ですから、RPAで置き換えられる業務は、一般的に期待されているほど多くはないのです。

一方、会計業務には、一定のルールで決められた仕事も多く存在します。決算や納税に関する業務は毎年同じ時期に必ず発生しますし、毎月、毎週の経営会議には財務情報が必ず利用されます。そのような定期的に必要となる定型業務に、RPAを取り入れることができるのです。

会計業務に特化することで、導入しやすい価格設定に

―― すでにRPAツールはたくさん出ています。そういったツールを導入している企業も多いのでは。

細かい定型業務が多い会計の分野では、RPAを使いたいというニーズは大きいと思います。しかし、費用対効果を考えると、簡単に導入できるものではないのです。

先行するRPAツールは、年間で数百万円必要になるケースも珍しくありません。とても優れた製品で、幅広い分野の業務に対応できますが、その分コストは高くなります。また、RPAを導入するための業務分析やシステム構築にも時間と手間がかかります。

ですから、経理・会計部門の定型業務を効率化することを目的にツールを導入したくても、対象となる部署の人数が少なかったり、対象業務の範囲が限られていたりすると、導入のハードルは高くなってしまうのが現状なのです。

―― 今回開発したRPAはそういったものとは違うのですか。

使いたいけれどなかなか導入できない、という課題を解決しようと研究開発に取り組んだのが「AccountechRPA」です。これは、当社の会計システム「OPEN21 SIAS」のオプション機能という位置付けで、会計業務に特化した機能しかありません。その分、リーズナブルに提供することができます。料金は税別100万円(システム導入支援料、保守サービス料が別途必要)に設定しています。

OPEN21 SIAS専用にしているのは、サービスの安定化とアフターサポートの向上といった狙いもあります。RPAと連携しているソフトがバージョンアップしたときなどにうまく作動しなくなってしまうリスクを低減できます。また、RPAに不具合が見つかったとしても、原因の特定がしやすくなります。

「視覚的な分かりやすさ」を追求した設定画面

―― 実際には、どのように作業が自動化されるのでしょうか。使い方を教えてください。

通常の手作業では、OPEN21 SIASのメニューから「インポート」などの項目を選んで、一つずつ処理していくのですが、その一連の作業を自動化することができます。

このシステムでは複雑な設定は不要です。実際の設定画面を見ると分かりやすいでしょう。「インポート」「帳表出力」などの業務別に分かれているタブの中から該当するものを選び、作業の順番を指定して、“業務のセット”を作るのが基本的な設定方法です。ドラッグ&ドロップで作業を指定できるようにして、「視覚的な分かりやすさ」を徹底した画面にしています。

「AccountechRPA」の設定画面
「AccountechRPA」の設定画面

例えば、「毎週、社内の共有フォルダにある、各部署の売上データをインポートし、管理資料を作成する」という業務を想定します。設定するときは、どの期間のデータをどこからインポートするか、どのような集計をして、どういった書式で出力するか、そして、その作業をいつ実行するか、といった流れに沿って手順を指定していきます。業務終了後のメール通知やデータ送付も設定できます。

細かいパラメータ設定も可能です。例えば、全社合計と部門別の実績を分けて設定することや、発生した科目のみの集計か、全ての科目の集計か、といった要件を選ぶこともできます。決まったフォーマットに沿って、部品を入れていくようなイメージですね。

―― 確かに、これなら複雑な入力などは必要なく、視覚的に操作できますね。

会計業務は整理されているものが多く、RPAには向いているのです。RPAに関する議論では、ロボットが何をしているのか分からなくなってしまう「野良ロボ」の問題がありますが、指定した期間や手順に沿った作業だけを自動化すれば、管理もしやすくなります。

このソリューションで使っている技術は難しいものではありません。正直、他のツールでもできます。ですが、会計業務に“特化”しているということが重要。限られた範囲の業務を自動化できるという意味では、「(費用対効果の面で)今までできなかったこと」ができる、と言えるのではないでしょうか。

会計の現場で“本当に使える”技術を

―― どのような課題を抱える企業がターゲットになるのでしょうか。

定型業務だけが自動化の対象なので、業務を劇的に削減するわけではありません。それでも、「この作業がなくなってくれたら……」という業務は日常的にたくさん発生しています。定型業務をロボットに任せることで、人は判断や意思決定に集中し、より専門的な業務に時間を使うことができる。仕事をそのように変えていきたい企業のお手伝いができると考えています。

―― 今後の技術開発の方針について教えてください。

原点は「お客さまにきちんと使っていただけるものを開発する」ということ。自社で研究所も構えて取り組んでいますが、最先端の技術というよりは、実際の会計業務に落とし込むことができる技術を求めているのです。ですから、研究を経て実用化した技術については、お客さまのお役に立てる自信があります。

今後、まずはAIとRPAの開発や提案を強化していくことが必要です。加えて、新たなテーマにも取り組んでいきます。会計分野で従来使われてこなかった技術を取り入れて、会計業務に役立つ機能をお届けしていきたいと考えています。自然言語処理(NLP)や全地球測位システム(GPS)などの応用が新たなテーマになるかもしれません。

今ある技術をどう会計に使えるか。会計の発想と技術の発想を組み合わせることで、新しい提案をしていきます。

峯瀧社長は「会計業務に役立つ技術を実用化したい」と意気込む
峯瀧社長は「会計業務に役立つ技術を実用化したい」と意気込む

ICSパートナーズのRPAは、ただ業務効率化を実現してくれるだけではない。開発の背景には、経理・会計業務の現場に徹底的に寄り添う姿勢がある。その専門性と技術力が、バックオフィス業務の変革を目指す企業にとって、大きな力となるだろう。

この記事は、アイティメディア株式会社の提供により、ITmediaにて取材・掲載された記事を一部内容を変えて掲載しています。